第9話 『鯨牙艦』プルアリム
【1】
ルイが視線を向けるのはメア──ではなく既にケルトしか見えていない。脳内では闇魔術付与のイメージを創造魔法と組み合わせながら脳の回転をフル稼働させる
メアを守るために、更なる力を求めていく
イメージするのはマグナム。闇魔術付与のイメージも同時に行う。自身の体の周りを感じたことのない魔力が漂い始めていく。身体中の血管が熱くなり全身もつられて熱くなる
「これが……闇魔術……」
今までに感じたことの無い魔力に驚きを隠せずにいるがケルトは既にメアに近づく直前だ
ルイは体内に残っている魔力を唯一動かせる右手に集中させる。狙うはケルト──外したらメアは殺されてしまうかもしれない。それでもやらなければならない、彼女を──守るために
「『闇魔術付与』──創造魔法『マグナム』に付与……闇創造魔術『
マグナムに闇魔術を付与したそれは漆黒の魔力を纏い速度も何もかもが桁違いに伸びているのを感じる。黒弾はまっすぐにケルトへ向かっていく。このまま行けば身体ごと貫通するだろう
「──もう何しても無駄なんだってことがまだ分からないんですか? そんな魔法如きで僕を止め……ら……れ……え?」
黒弾に向けて腕を振り払い魔法を消滅させようとするケルト。しかし黒弾は消滅せずそのまま振り払った左腕を撃ち抜き穴を開けた
「なんで、僕の左腕が──」
ケルトは驚愕といった表情で目は見開かれ信じられないとばかりに穴が空きそこから血が滴る腕を見つめている
ケルトが消せるのはあくまで魔法であり魔術ではない。それを理解するのに時間はあまりかからなかった
「──魔術、だと? 有り得ない、魔術を使えるのはもう一人しかこの世界には存在しないはずだッ! それも、『四大天』の醜き魔女が! それなのになぜ、何故お前が魔術を使えるッ!」
ケルトは怒りの形相で穴の空いた左腕を力なく下ろす。彼の言うことが本当ならば魔術を使えるはずの同じく紅血『四大天』──魔女以外にもルイが使っているのは何かが引っかかる
魔導書は古の魔法使いまたは現在の高等魔法使いが魔法を本に封印することで出来上がる魔法の書物
「ふ、ざ、けるなぁぁッッッ!」
ルイはいま考えるのを中断し前方から高速で突撃してくるケルトを見やる。うつ伏せのまま立つことができないルイは素早くイメージ……創造魔法を使う
「『黒弾』ッ」
黒弾をケルトに向けて数発放つ。しかしケルトはそれを全て躱していく。次第に距離が縮まりルイに焦りが出始めた
「当たらなければ意味なんて無いんですよ、僕が、お前にぃ……負けるわけがないんだぁッッッ!」
ケルトは更に速度を上げ拳をルイに向けて放とうとする。その拳からは膨大な魔力が感知され当たれば即死だろうと思わせる
──ダメだ、強すぎる。速すぎる、これが実力差なのか……? こんなとこで終わってられるかよ。ルイはすぐに思考を切り替えイメージを開始する。創るのは新しい魔術
「闇創造魔術『黒壁』ッ!」
土壁を意識しながら闇魔術を付与していく。そうして創造魔法と組み合わせて放つことで目の前に黒い壁を創りだした
ゴン、という音とともに黒壁にヒビが入る
ケルトの魔力は先程よりかなり増えていた
「僕の、僕たち『紅血』の邪魔をするやつは──王国に召喚された勇者も、その仲間も! 全員殺すッッッ」
黒壁が崩れる。ケルトの拳は壁を突き破ったままそのままルイの顔へ──当たらなかった
当たらなかった、というよりはルイもケルトも身体が動かなくなっていた。全身が痺れるかのような重みが走る
「ヒュルォォォォォォォッッッ!」
頭上から得体の知れない咆哮がしていき大地がそれに合わせるかのように震える
「なんだ……これは」
ルイは上が気になって仕方ないが身体が動かないことに苛立ちを感じていく
「全身が重い……そしてこの咆哮は……?」
魔物がいるのは確かだった。しかし上を見上げることすらできない
そんな中ケルトだけは憎悪の感情を膨らませていた。呪詛を吐くかのような低い声でぽつりと呟く
「『
「ッ!?」
ケルトの口からプルアリムの名が出たのと身体が重みから外れたのは同時だった
バッと上を見上げる。そこには果てしなく大きな鯨、それも全身は1キロを超えていて背中には龍種に見える翼が牙のような鋭さを見せながら広がっている。そしてプルアリムの瞳は真っ赤に蠢いていた
「これが……プルアリム」
【2】
ケルトは動くようになった身体でルイを一瞥すると背を向けた。そして
「邪魔が入りましたね、次出会ったら今度こそ貴方たちを殺します。『紅血』の悲願の邪魔をする者には──」
ケルトはプルアリムをジッと見つめたまま言葉を繋げていく
「死の制裁を」
そう言い残してケルトは姿を消した。ルイは自身にヒールをかけるが折れた骨は回復できず身体が思うように動かない。しかしそれでも踏ん張り立ち上がる
「──メア、メア!」
倒れて気を失っているメアのもとまで急ぐ
上を見るがプルアリムはルイに気づいている様子はなかった。いまは一刻も早くこの場から逃げ出さなくてはならない
メアにヒールをかけ背中に背負う。ギジリと左腕に負荷がかかり激痛に顔を歪めるがなんとか移動することができる。プルアリムは現在世界樹と元獣国の間の上空を飛行しているため逃げる方向はその真逆──魔境方面となる
「魔境か……いまは逃げることだけを考えよう。鬼が出るか蛇が出るか……」
魔境へ逃げた先で襲われる可能性も考えたがいまこの場に留まる危険性の方が明らかに高かった。メアを背負いながら痛む身体に気を配りながら前へ前へと進む
「はぁ、……はぁ。身体中が痛い、もっと強く──メアも、俺自身も守れるほどに強くなりたい」
唯一無二の力、創造魔法を獲得し。魔法の効かない相手にも攻撃できる魔術も習得した。それなのにケルトには歯が立たなかった──それは単純な戦闘力だけではなく動き方やらなにまでが全く違かった
元獣国ルーニアの国境まで近づき後ろを振り返る。プルアリムとは距離がとれたかもしれないと思っていたが向きを変えてこちらへ進んでいく
「まじかよ……ッ」
焦る気持ちに冷や汗が出そうだが歩く速度を無理やり上げていく。プルアリムに見つかって戦闘にでもなった場合必ず殺されてしまう
前方にうっすらと森が見えてくる。おそらくあれが魔境なのだろう、さらに足を早める
また後ろを振り返ると既にプルアリムとの距離はかなり縮んでいた
「ヒュルォォォォォォォッッッ!」
「ぐぅ……ッ」
全身に圧力がかかり身体中が麻痺する。腕は痙攣しメアを支える力を失い彼女は下へ落とされる。ルイも膝をつき地面に手をついてしまう
視線だけプルアリムへ向ける。その時ふと視線が交差した──ような気がする。プルアリムはもう一度咆哮すると真下へ急降下を開始した
「くそッ……身体が、動かない……メア、メア……」
地面が暗くなりプルアリムの影に覆われていく。もうダメだ、そう思ってしまう
「ヒュルォォォォォォォッッッ!」
プルアリムは大きな口を開きルイとメア目がけて突撃の手をゆるめない
「──! ────ッ!」
近くで小さな子供の声が聞こえる。それも少女のような、それでいてどこか悲しそうな声
腕が持ち上げられる感覚がしたのとプルアリムがすぐそこまで近づいてきたのは同時に起こり、ドゴンッと音を立てながら地面が揺れるのを最後に感じ取りルイの意識は落ちていった
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どうも、こんばんは!
めるです
めるです!!
まずは謝辞を、この度第9話を読んでくださりありがとうございました!
最近応援コメントやTwitterのDM、はてはリプでコメントを頂きながら送られてきたアドバイスや面白いです!といったコメント、頑張ってくださいと。とても有難いコメントをありがとうございます。それはもう喜びすぎて夜しか眠れなくなってます、はい。
魔境編と書きつついつ魔境が出るんだと、思ってた方!魔境編メインは次の話からですよ
楽しみにしていてください!
コメント付きレビュー、作品フォロー。下の方よりエピソードに応援や応援コメントもたくさんお待ちしております!!
それでは次は第10話でお会いしましょう!
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