第3話 ルイとメア

【1】


 人間は脳のリミッターが外れるときまたは大切な人を守ろうとすると力が100%近くまで出せるという


 ルイは傷だらけになった獣人の少女を抱き抱えたまま王都の南側──ダンジョンへ向かって全力で走っていた


 軽く止血はしたのだろうがそれでも血がポタポタと垂れ地面に赤黒い点をつけていく


「はぁ、はぁ。あと少しでダンジョンだ、休憩エリアに入れば治療してやる──だから間に合ってくれ!」


 もしこの異世界に神というのが存在したのならばルイはきっと頭を下げてでもこの少女を助けてくださいと頼んだことだろう


 彼女はルイと同じ側の人間だ──


「こいつの瞳の色は周りの人間に対して怒りや不満はなかった、ただ底知れない何か強い感情が現れていたのは確かだ」


 そう、それもルイと同じ感情


 きっと彼女も色んな人間に獣人だからと避けられ忌み嫌われ憎まれたのだろう、獣人は望んで獣人に生まれてくるわけではない


「勇者だって、望んで召喚されてるわけでもない」


 ──それなのに


 この王国の人間は人の中身を、本質を見ようとしない。あくまでだけが欲しいだけ、王国としては戦力にならない、使い物にならない勇者はいらないんだろう。しかし期待するだけしてその後簡単に捨てる──そんなことを平気でやってのけるのだ


 この獣人の少女みたいに、見た目が普通の人とは違うからと。実際獣人と人間には違いは少ない、だが人は見た目で、種族で人を区別する──それも本能的に


「俺は強くなる、王国が魔族に攻められるまであと1年しかない。それまでに力を付けなければいけない」


 ルイが勇者としてこの世界に召喚された際この世界についての基礎知識とどういう状況かは脳内にインプットされていた


 ここ王国は世界樹と呼ばれるダンジョンを中心に数々のダンジョンが発見されている国である、しかし世界樹を挟んだその奥には魔族が暮らしていた


 予備知識として魔族は王国に度々攻め入り色んな街を襲撃してると聞いていた


「それも、この王国には未だ発見されていない未知のダンジョンや踏破されていない高難易度ダンジョンがあるからか」


 だがそれは世界樹を挟んだ魔族の住む場所も同じく王国よりは少ないがダンジョンもあるはずだ、では何故? と疑問を抱くのが普通で1度王様に聞いてみたが何も知らないとの一点張りだった


「世界樹──、合計30層にも及ぶ巨大ダンジョン。しかし5層ごとに鍵がかけられていて他のダンジョンで手に入る鍵が必要……ねぇ」


 そこまでして世界樹というダンジョン、30層に人を近づけたくないのかとも思ってしまう


 5層ごと、と言うが世界樹のダンジョンが発見されて1年が経つが未だに5層で止まっている

 王様には鍵の探索も命じられていたが追放されたのだからそんな命令に従う必要はない


「だけど、気になるな。王様の命令とか関係なく俺は知りたい──世界樹というダンジョンを」


 そうして考えごとをしていると気づくと王都の南側のダンジョン、通称駆け出し冒険者の溜まり場──アインに着いた


【2】


 アインというダンジョンは主に駆け出しの冒険者が少しでも強くなれるために設けられたダンジョンである。計3層からなる森のダンジョンにはダンジョンボスモンスターと呼ばれる魔物が配置されている


 ひとまず中に入り休憩エリアに入る、この時間帯はダンジョンに潜っている人が多いためか人が少なかった


 獣人の少女を床に下ろしてルイは目を閉じる


 創造魔法──発動


 傷が塞がり、回復するイメージを頭の中で強く思い浮かべる


 さきほどインパクトを習得したみたいに全身が熱くなる


 鼓動が速くなり体も熱くなる


 右手を中心に圧力のようなものを感じた


「これは……」


 よく分からないが何かスキルを手に入れたようだった


 それは後で見るとしてもう一度集中する、右手を少女へと向ける。習得したスキルの名は


「『ヒール』」


 初級治癒魔法だった


 目を開けると少女は緑の淡い光に包まれていきみるみる傷が塞がっていくのが見える。成功だった


「ステータスオープン」


 もう1つのスキルが気になり目の前に可視化されたボードを呼び出す


【魔力感知:常に適用。魔力を感知

 することができる、魔力操作も可


 ヒール:初級治癒魔法。対象の傷

 を癒すことができる 】


 魔力感知……? 魔力操作?


 あの時感じた圧力とは魔力のことだったのかと納得することができた、魔力操作というのも気になる。例えばインパクトの魔力を操作して凝縮した魔力弾に変えて素早く放つことも可能なのかもしれない


 これはかなり役に立つぞと思った時横から微かにだが声が聞こえた


「……ここ、は」


 少女はゆっくりと目を開けていく、目が合ったルイはというと


「気がついて良かったな。傷はもう塞いでおいた」


 優しく微笑みかけた


 少女は自分の体をペタペタと触っていき傷が塞がっているのわー目の当たりにしてふっと笑みをこぼした


「助けてくれてありがとう、キミは優しいんだね。お人好しってよく言われない?」


 初めてこの少女が笑顔を見せてくれた瞬間だった


 ルイは内心その笑顔にドキリとするが相手はきっと年下だ、と自制心をかけるので精一杯だった


「生憎お人好し過ぎてこの国自体に裏切られたようなものだ」


 実際にこれからこの少女とはきちんと話がしたかったので隠し事をせずにこちらから話を振る


「この国に、裏切られた?」


 少女は当然の反応と言わんばかりに首を傾げる。当たり前だが急に国に裏切られたと言われて真顔ではいそうですかと言える人間はそうそういないだろう


「俺はルイ、勇者として別の世界からこの世界に召喚された。でもスキルもなく勇者として余りにも無能だと言われ無実の罪を言い渡され王宮から追放さ」


 半分皮肉になってしまったがこの少女からも話を聞く手前先にこちらの話をした方がいいだろうと判断した


「ルイ、か。そっか、キミにそんなことがあったんだね。でも、ごめん」


 彼女はそっと目を細めて付け加えた


「私はキミが可哀想だとは思えた、けど同情とかはいらないでしょ? 私にはわかるんだキミのその瞳はまだ色を失っていない。つまりまだなにか生きる目標があるんじゃないのかな?」


 彼女の言う通りだった


 ルイは自分をここまでどん底に落とし、裏切り、貶めた王国を許すつもりは無い。だからといって復讐なんてことはしない。ただこれからはルイ自身の考えで動き生きていく


 そして今の目標というよりは目指すべきは世界樹のダンジョン全層攻略だった


 そのためには強くならなければならない、しかしこの少女からも同じようななにかがある


「あぁ、俺はこの世界について知りたい。王様はやけに世界樹のダンジョンの鍵を探していた。その理由も知りたい、それなら俺がこの目で世界樹のダンジョンを攻略する」


 そのためにも


「強くなる。無能だと罵り、貶めてきた王国の連中もなにもかも二度と俺をバカにできないくらいに強くなる」


 そして俺は────世界樹のダンジョンを攻略してこの世界について知る、気になるのだ。王様がどうして勇者に魔族、魔王を倒せと言わないのか、何故世界樹に拘るのかを


「お前も──俺と同じ。あそこまで人間に殴られ、蹴られ、辱められてきたのにその瞳は死んでいない。生きている」


 彼女は笑顔で笑みをこぼし、そっと頷いた


「そうだ、私は生きてる。私は私以外の人間を信じることはできない、獣人だからと、少し見た目が違うだけで平気で殺すことができる人間を──でも」


「俺は王国の連中に裏切られ、貶められ、この身をどん底に落とされた。王国の人間は自分のことしか考えてないクズばかりだ、だから嫌いだ──けど」


「キミは違う。なんでか分からない、けどキミなら信じられる」


「お前は違う。王国の腐った連中なんかとは違う、クズなんかじゃない」


 ルイは彼女を真っ直ぐに見つめる、彼女も同じくルイの目を真っ直ぐに見る


「お願いがある、俺の目的に付き合ってくれ。俺は世界樹を──ダンジョンを攻略する」


 ──ダンジョンか、と彼女を呟き


「喜んで、キミに助けられたんだから当たり前じゃないか。それに私は──」


 何分経っただろうか、あるいは数秒か


 ルイには長く感じられた



 私の名前はメア、よろしく──そう付け加えた


 ────────────────────

 こんばんは、少し公開が遅れました。

 どうでしょうか? 読みにくかったとかはありませんでしたか? 誤字脱字があればすぐに編集して直します。

 そしてお礼を。新作連載して1日が経ちましたが100pv達成しましたことを嬉しく思います

 そして第3話もこうして読んでくれたことを感謝します。よければ作品のレビューお願いします!エピソードに応援と感想コメント、応援コメント頂けると頑張れます。ではまた4話でお会いしましょう












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