第2話 春陽の死にざま
あの日芽衣はあの女を止めようとしていた。もしくは自分の想い人、田中君に「その女と付き合わないで! 私を選んで」と告ろうと現場へ向かった。
クラスメイトから三人が相次いで屋上に行ったと聞いた私は、芽衣のほうを引き止めようと階段を駆け上がったんだ。
芽衣の気持ちはわかる。その女、
パッと見は虫もGも殺しそうにない親しみもてるカワイイ系だから、男子もころっと騙される。
「前の彼氏とはどうなったの?」と聞く男がいても、「私じゃダメだったみたい……」の一言で逆にズキュンと悩殺。
珠莉の秘密手帳には、サイズ、持続時間、テク、清潔度、失敗の詳細が書かれているという。それを男子生徒は誰一人として知らない。
もっと怖いのは、その情報が裏取引されているらしいことだ。
「いいな」と思った相手のデータを、お金を払って珠莉に聞く女子がいるんだって!
初めてなんて、女の子にとっては元々大ごとだけれど、男子にとっても楽なはずないじゃない。それが上手くいかなかったからって。
「高校生が最初っからコントロールできるほうがヘン」って兄貴は言ってた!
(だから男には気をつけろって私は釘を刺されたんだけどね。そうじゃなきゃこんな話兄貴とするわけがない)
珠莉のやってることを知った時私は、
「プライベートはふたりでゆっくり練習しながら作り上げていくもんだよ。十分大人になってからね!」
と言って、「お婆ちゃんみたい」って芽衣に爆笑された。仕方ないでしょ、そういう性格なんだから。
確かにね、芽衣の好きな田中君はイケメン度中の上くらいで、優しさと正直が取り柄の目立たないチェリー臭ぷんぷん、芽衣が心配するのもわかる。
と、必死で階段駆け上がって、芽衣の背中の向こうに一瞬見えた田中君と珠莉の様子。私の記憶によると、珠莉は手の中の缶コーヒー使ってもじもじを演出、でも田中はそれに「辟易?」って感じでそっぽ向いてた。
「あ、これなら大丈夫だよ、田中、断るんじゃない?」と芽衣の肩を引き戻そうとして、伸ばした左手がすべった。ついでに左足一段踏み外した。日頃の運動不足がたたって、2階から5階に当たる屋上手前まで走り上がってきた膝が笑っていたんだ。
力が入らないところに芽衣を道連れにするわけにはいかないと、右手で彼女の背をとんと押したら自分の身体が裏返った。私はコンクリートの階段を仰向けに、両脚からがんがんと滑り落ちてしまったのだ。
芽衣の叫び声が聞こえていた気がする。泣きわめいていたような。
芽衣を助けるならって、やっぱり巻き添えにしてしまったんだろうか? 芽衣も死にかけていたらどうしよう?
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