第4話 ぷ、ぷろぽーず? 魔王?
またあの白い部屋に来ていた。
「ご苦労。これでオレもここから出られる」
「閉じ込められていたの? あ、そのために私を利用したんだ、自己都合って言った!」
「人聞きの悪い」
低い声に温かみがあった。妙にこそばゆい。事務的なAIのようなヤツだと思っていたのに。
「それに何、あのセリフ。春陽はもらったなんて言っちゃって。芽衣を安心させるためだとしても、事前根回し欲しいんですけどぉー?」
「事前じゃプロポーズしようにも足がなかっただろ? 片膝もつけない」
「ぷ、ぷろぽーず?」
私はどっと赤面しているというのに、男はニヤニヤしていた。イケメンに表情があるというのは凶器だ!
「おまえみたいなヤツ待ってたんだよ。なりふり構わず他人のために行動できるバカ。第89天魔王になることは決まってんのに身体がない。オレの死体は酷く傷んでて持ってこれなかった。それで死んだ人間を召還して課題を与え、成功すればそいつのイメージした身体がオレに実体化することになった。だが他人を思う気持ちが少ないヤツだと耳だけとか指一本とか、ほんといつになるんだろうってうんざりしてた」
「ま、魔王って悪い人なんでしょ? い、いやよそんなの。アンタを助けてしまったのも心外だわ!」
魔王になるらしい男は自分の新しい足を試すように、私には見えないボールを使ってサッカーのリフティングぽい動きをしている。
細身のジーンズが今度は見えた。引き締まった筋肉の動きに合わせ、黒いストレートヘアがふさっふさっと跳ね、静と動の躍動感たっぷりに。
「落ち着けよ、ハルヒ、らしくない。おまえは自分が死んだと知ってもひとっ欠片も自分の心配をしなかった。普通なら『自分、かわいそー』って泣き喚くもんだ。やりたいことあったのに、とかあんな恥ずかしい死に方して、とか一言も言わなかったよな?」
「言う暇なかっただけだよ……」
「違うな、オレはその肝の据わり方にホレた。そしておまえのババアみたいな道徳観念も、友人や男どもを心配する優しさも好きだ。おまえが一緒に来てくれたら第89天界もうまくやっていける。この部屋もそれを認めたんだろう、オレに足りなかったものを全て返してきた」
「表情も?」
「そうだ。おまえがいればオレは笑っていられる。どっかでずっこけてないか心配もさせられそうだが、それもいい。人間、心配する相手がいなくて自分のことばかりに囚われると歪むからな……」
「アンタは魔王で人間じゃない!」
好きだと言いながらどうしてこの男はこうも上から目線なんだろう?
やっぱり魔王だからか。私に好かれていること大前提? 私の気持ちはどうなるのよ。
「そこに盛大な誤解がある。魔王ってのは死んだ人間の中で情念が強くて魔法が使えるヤツ。死後の世界を取りまとめるのに魔法が便利なだけだ。悪いことするわけじゃない。ハルヒにさせた課題だっておまえたち二人のためになることだったろ?」
「そりゃ、そうだけど……」
わからないことだらけで、気に入らない。利用された感は拭えない。このまま目の前の男と結婚? 知り合ってまだ何時間よ?
とりあえず、質問は受け付けてくれそうだ。
「もう89も死後の世界があるの?」
「ぶはははっ」男は腹を押さえて笑った。
「また突然突拍子のない質問をする。それも可愛いところではあるんだが、前回もあの芽衣って子のことを急に話し出すからああなっただけで、一応ゆっくり状況を説明するつもりだったんだぜ?」
「あー! アンタ脱げって言った、私着替えてた! アンタ私の裸見たの?」
今度は両手で頭を抱え、その場にしゃがみこんだイケメンには似つかわしくない姿から、ぶつぶつと失礼な言葉が上がってくる。
「頼む、オレに後悔させるな。そりゃおまえは階段で滑って転んで死ぬような女だ。でもこの下半身を作ってくれた。オレはおまえのものだ。この脚諦めて、また何百年もちまちま身体作っていくなんて堪えられない……」
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