最終章

       最終章


 おまえははしる。

 おれたちとともにはしりつづける。

 所謂いわゆるオリンピック作戦により人類は宇宙となった。膜宇宙となった人類ははしった。はしらなければビッグクランチが発生してへいするのだ。人類ははしるはしるはしる。膜宇宙となった人間の内部にてまた人類がオリンピック作戦を遂行する。人類はまた宇宙となる。しやはんの経緯がえいごう回帰する。窮極集合が誕生する。窮極集合ははしる。問題がおこった。二次元の膜宇宙が膨大になったがゆゑに十一次元のカラビ・ヤウ多様体内にて膜宇宙同士の衝突によるデコヒーレンスが指数関数的に増加していったのだ。みながにはしっていたのでは駄目だ。このままでは窮極集合ぜんたいが対消滅でおうさつされてしまう。おれさまは先駆者としてみなをそうした。みんな リレーをするんだ バトンをわたして順番にはしるんだ そうすれば衝突によるデコヒーレンスをまぬかれる 人類の存亡をかけてはしるんだ と。おれさまたち人類はマラソンをはじめた。ほかに生存方法はなかった。結句ろうこんぱいした膜宇宙たちはてきちよくして対消滅していった。みな量子脳理論的な素粒子としてのこんぱくとなっていった。のこりはふたりだ。おれとおまえである。おれにも限界がきていた。カラビ・ヤウ多様体の最涯てにこうぼうがさした。おれたちはさとった。ゴールだと。おれは最後のりよりよくをふりしぼりおまえにバトンをわたした。おまえははしった。人類で唯一ゴールに到達した人間になるべくはしった。想像をぜっする拍手をあじわうためにはしった。おまえははしるのがすきだった。はしりすぎて自殺した。素粒子となった人類はそんなおまえを応援した。

 いけ ゴールはすぐそこだ と。

 がんばれ 円谷幸吉! と。


〈了〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『最後のRUNNER~あるいは窮極集合論におけるはしる宇宙たち』短篇小説 九頭龍一鬼(くずりゅう かずき) @KUZURYU_KAZUKI

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ