第二章 Ⅳ

 べつけんしてりゆうげん狂言荒唐無稽なる解答であることはあきらかであった。といえどでゴッドライクマシンに任免ちゆつちよくされたのが銀河系IOCである。厳密に換言すれば銀河系IOCが研究用に捕縛していた彫刻師の存在である。彫刻師はいった。いわく 我が最高傑作はきつ光速をりようしたがゆゑに時間を遡及していったのだ いま あのときのりようをもって全人類を機械化し反物質エンジンを搭載せしめて移動すればみな時間を超越してゴッドライクマシンのいうとおりに宇宙の根源までさかのぼれるはずだ と。とどのつまりはこういうことだ。三千億人の全人類が光速をこえてはしってはしってはしりまくって宇宙のしゆうえんからのがれろ。において全人類は全人類みずからを存続せしめるため勇猛果敢に疾駆するランナーとなる。銀河系IOCはいんけいかくを勝手に『オリンピック作戦』と命名した。ようにしてオリンピック作戦は遂行された。電脳機関が全人類を復活させてにくたいを改造したうえで改造された全人類は地球火星金星それぞれの場所にてきちよくしたのちクラウチングスタートのふうぼうをとった。全人類の電脳には量子もつれによって信号がでんされる。オンユアマークス=位置について。セット=用意。――――ピ。四四〇Hzのきゆうそうたる電子音。はじまった。人類ははしる。全人類ははしってゆく。陽電子反物質エンジンを炸裂させて我々は光速をこえてはしる。東日本大震災をこえ紐育にゆーよーく同時多発テロをこえ両次世界大戦をこえナポレオン戦争をこえ大航海時代をこえぶんげい復興期をこえ。りすとたつけいをこえ。人類の誕生をこえ。生命の誕生をこえ。地球の誕生をこえ。宇宙のはれあがりをこえてビッグバンとインフレーションをこえてカラビ・ヤウ多様体をはしりぬけ――。全人類はかいなる白銀の薔薇ばらかいこうした。薔ばらはいう。いわく 我が父母よ ヤルダバオートよ ΑにしてΩなる存在たちよ さあ あめつちのはじまりのはじまりへとむかいすべてをあるがままに誕生せしめたまえ と。ようにしてえいごう不滅のシュヴァルツシルト半径に幽閉された全人類は虚数空間の三千億本のひもとなった。三千億本のひもまたおれさまと同様に『はしる』ことをおぼえ実数空間へとばくしんしてゆく。三千億個のはしりつづける宇宙が誕生しそれぞれの宇宙内の三千億人の人類がまた光速をこえてはしって虚数空間のひもとなりおれたち同様はしることをおぼえてはしりつづける宇宙となりそれぞれの宇宙にまた誕生した三千億人の人類がおなじことをくりかえしてゆく。いんが無限の多元宇宙ひつきよう窮極集合の誕生である。簡単なはなしさ。人類がはしるから世界は存在しているんだ。

 おれははしる。

 おれはおまえとかいこうした。

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