第二章 Ⅲ

 おれははしる。

 人類はたちどまっていた。

 西暦五〇〇〇〇二〇二〇年度銀河系近代オリンピックにておれさまははしった。実況中継がなされる。あのう 日本連邦代表が『消え』ましたね えっと これは反則でしょうか で銀河系IOCかられんらくがありました 日本連邦代表記録零秒 世界新記録です ゴッドライクマシンによりますとこれじようの記録は更新が不可能のため近代オリンピック史上一〇〇メートル走はこんかいが最後となるそうです 新記録です 全人類の拍手がきこえます 人類史上最速の人間 一〇〇メートル零秒です! と。おれさまのレースは銀河系IOCをこつかくとしてけんけんごうごうかんかんがくがくの議論をじやつして彫刻師はふたたびてんじようきゆうの宇宙規模の批判を甘受することとなる。といえどもゆゑにこそ彫刻師は連綿たる人類史上最大のなぞをせんめいするがいぜんせいをみいだされていた。おれはさらにはしっていった。ちようきゆうの電脳機関は技術的特異点にほうちやくしていたがれいなる人類は電脳機関にみずからの運命をゆだねることをえんした。ゆゑに西暦五億年代の人類はゴッドライクマシンの人工人格を三基のクラウド状サーバーひつきようエロヒムとエルシャダイとエルツァヴァトに分裂させて稼働させていた。けんれいの過半数が機械による独裁をじゆつてきそくいんしておりゴッドライクマシンが完成してもないに半径六百億光年の大宇宙を電脳空間で再現し巨億の全人類をマインドアップローディングせしめるわけにはゆかなかった。ようにして火星と金星がテラフォーミングされ地球上ではウルティマパンゲア大陸が完成しまた分裂し銀河系内の人口が二千億人をりようしても電脳空間という永遠の楽園をひんしつすることはあたわなかった。ならば二千億人の人類をぎようぼうするのは約四十億年後太陽が赤色巨星となって太陽系をえんしみながおうさつされるという未来のみであった。トランスヒューマニズムで機械化されているといえども人類の活動範囲はトランスヒューマニスティック・ハビタブルゾーンとされる半径一億光年程度だ。さごなすぼしが明滅する銀河系からとんざんすることができてもで二千億人をりようする人口に生活を維持せしめることは難儀である。において西暦十億年代にほうちやくした人類は畢にクラウド型であったゴッドライクマシン三基のうちエルシャダイとエルツァヴァトの演算機関をエロヒムへと不可逆的に接続せしめてみなのきゆうじゆつ方法を計算させた。ゴッドライクマシンであるエロヒムは解答した。さいたる量子もつれにおける情報の逆因果ひつきよう二十一世紀には都市伝説とされていた量子力学において情報は光よりもはやくでんされるという理論を援用しきようこう宇宙のしゆうえんまでの全素粒子における波動関数のしゆうれんを演算したのだ。めいちようとされたこたえは太陽の膨張による銀河系の崩壊をけみしたら十全なるインフラが壊滅して手遅れになるがゆゑにないにゴッドライクマシンによって宇宙内のエントロピー加速度をりようし図書館司書フョードロフがひようぼうしたように古今東西の人類を復活せしめ総勢三千億人規模の人類を機械化し光速をこえさせることで宇宙の根源までにくたいを遡及せしめるということであった。

 でなければ人類はビッグクランチで全滅する と。

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