いかにして吟遊詩人の少年は魔術師の弟子になったのか。

 吟遊詩人の一家に生まれたロゥラエン。とある事件によって家族を全て失ってしまった彼は、ひょんなことから月の塔の『灰』——高名な魔術師アルラダの弟子として拾われます。

 彼らが出会った街では、子供たちが行方不明になる事件が続き、やがて戻ってきた子供たちは、なぜか魔法陣を極度に怖がるようになってしまっていました。ロゥラエンは師匠と共に、その事件を解決すべく動き出します。

 前作『ルヴァルフェンサ 遺石蒐集家』の主人公エテンとその師匠との出会いの物語。師匠がどうしてエテンを弟子にしたのか。そして師匠はどんな人だったのか。
 改めて、ロゥラエン——エテンの目を通して語られるアルラダ師匠は少し変わっていて、優しくて、ちょっと困った人で。けれど——

「子供は『未熟な大人』じゃない」
「弟子というのは師から学ぶものであって、師に搾取されるものではない」

 やっぱり彼はエテンが誰よりも敬愛した師匠であることが、言葉の端々から伝わってきました。前作を読んでいなくても楽しめますが、読んでからこちらを読むと、より胸に迫るものがあります。

 魔術師の弟子たちが魔法陣を怖がってしまうようになるという不思議な事件。誰がどんな目的でそんな事件を起こしたのか、そしてエテンと師匠はその謎を解けるのか——。

 魔法や魔術の存在する美しい世界で、ミステリと複雑な人間模様のドラマ、どちらもとても楽しめる一作です。

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