旅の吟遊詩人一家の息子ロゥラエンは、家族を殺され、わずか八歳で天涯孤独の身になってしまった。しかし、自立して生きようとする少年は、孤児院で保護されることを拒み、吟遊詩人として身を立てようとする。街の人々が憐れみを投げかけるなか、ただ一人彼の才能を認めてくれた人がいた。ロゥラエンはその人、灰色ローブの魔術師アルラダに弟子入りする。
その頃、街では魔術に縁のある家の幼い子ども達が、次々に攫われる事件が起きていた。子ども達は家に帰ってくると、攫われた期間の記憶を失い、魔法陣や魔導具を極端に恐れるようになっている。ロゥラエンは師匠とともに、この奇妙な事件の謎解きにのりだしていくーー
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緻密に構成された魔術の設定と、繊細かつ色鮮やかな描写が素敵です。
八歳のロゥラエンの素直な台詞と、クセの強い師匠との掛け合いが楽しい。他にも魅力的な登場人物が大勢いて、楽しく拝読しました。
個人的には、図書騎士アルゾと、ランタン屋のお爺さんが好きです。
つらい経験をのりこえて新しい世界に進んでいく少年と師匠に祝福を。魔法とミステリー風ファンタジーがお好きな方におすすめです。
吟遊詩人の一家に生まれたロゥラエン。とある事件によって家族を全て失ってしまった彼は、ひょんなことから月の塔の『灰』——高名な魔術師アルラダの弟子として拾われます。
彼らが出会った街では、子供たちが行方不明になる事件が続き、やがて戻ってきた子供たちは、なぜか魔法陣を極度に怖がるようになってしまっていました。ロゥラエンは師匠と共に、その事件を解決すべく動き出します。
前作『ルヴァルフェンサ 遺石蒐集家』の主人公エテンとその師匠との出会いの物語。師匠がどうしてエテンを弟子にしたのか。そして師匠はどんな人だったのか。
改めて、ロゥラエン——エテンの目を通して語られるアルラダ師匠は少し変わっていて、優しくて、ちょっと困った人で。けれど——
「子供は『未熟な大人』じゃない」
「弟子というのは師から学ぶものであって、師に搾取されるものではない」
やっぱり彼はエテンが誰よりも敬愛した師匠であることが、言葉の端々から伝わってきました。前作を読んでいなくても楽しめますが、読んでからこちらを読むと、より胸に迫るものがあります。
魔術師の弟子たちが魔法陣を怖がってしまうようになるという不思議な事件。誰がどんな目的でそんな事件を起こしたのか、そしてエテンと師匠はその謎を解けるのか——。
魔法や魔術の存在する美しい世界で、ミステリと複雑な人間模様のドラマ、どちらもとても楽しめる一作です。