内面世界への扉としての秀逸な視点

なぜか分からないほどスルスルと読み進められてしまうのは、主人公の中に自分自身が入り込むような一体感があるからなのではないかと感じました。文章表現があまりにも主人公の意識の近くにあり、それがある種の違和感をもたらすのですが、だからこそ、主人公の目と感覚と通してこの世界観を読み解こうとすると、主人公の意識が読み手に流れ込んでくるような気がするのかもしれません。
物語には世界観があり、キャラクターもそれなりにあるのでが、それ以上にこの主人公の意識に肉薄した視点が世界そのものではなく、主人公の内面世界を旅しているように感じさせます。その強烈な視点のフィルターを通して語られるのは、主人公そのものなのではないでしょうか。
そういった主人公の内面が前面に押し出されており、それと対照を取るような転生先の本来の人格が、また違う内面世界の扉のように思えます。
この作品では、精神世界に内面世界の扉が並び立つようにしてキャラクターが存在しているように感じました。それが彼らの存在している世界にベールのようなものを被せ、曖昧な印象をもたらし、世界観に何か不可思議な様子を加えているのではないでしょうか。

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