08「終りと新たな始まり」

 魔獣騒ぎも収まり、我がニクライネン家とコンサルタント、オウティル経営社の評判は上がりました。


 王都の経済界に特別なコネがある。武力も同様だ。そんな風評です。



 私は王都を訪ねます。協力してくれる友人たちと、今後について相談するためです。


 仕事を終わらせ安宿へと帰る途中に、その二人を見掛けました。


 見覚えがありますが、私は一瞬誰か分かりませんでした。


 しかし忘れるはずなどない。


 元婚約者のユリウス・リュハレル、そして結婚したと言われている、ヴァイノラ家の令嬢クリスタでした。


 クリスタ嬢は片足を引きずり、そして片腕は動かないようです。ユリウスはかいがいしく世話を焼いていました。


 二人は笑顔でした。そして平民街の居住エリアへと入って行きます。


 なぜあの二人が――。


 不思議な光景を見たように、私はしばし時を忘れてしまいました。



 アッセルの街に戻った私は、ユリウスの屋敷を訪ねます。無人でした。


 すぐに商業ギルドに行き当記録を調べます。


 リュハレル家とヴァイノラ家の領地ほとんどが、王国管理となっていました。


   ◆


「そうか。どう説明するかと考えていたんだが……」

「知っていたのかしら?」

「ああ。こっちはこっちで領地経営の立て直しに忙しいんだ。余計ことは言わない方がいいと思ってな」


 こちらは仕事の依頼者です。余計がどうかなんて、私が判断すれば良いことです。


 なぜかは分かりません。あの二人の姿は、私を否定しているようにしか思えませんでした。


 お金を捨てた二人が幸せそうで、お金を追い求めている私があまりにも惨めに思えました。


「それはおかしいですわ。知っていたなら私だって、何かできたかもしれないのに」

「それはだめだ。そんなことをすれば共倒れになりかねなかった。コンサルタントとしての判断さ」

理由わけは……」

「借金をずいぶん抱えていたらしい。娘をなんとしても治療しようとずいぶん金を使ったようだ。経営権を売って借金を返済した。とりあえず食ってくだけの領地は残ったようだな。賃貸料をもらってギリギリの暮らしだろう」

「いったい、どうしてそんなことに……」

「子供の頃に魔獣に襲われた。呪いの傷さ。あきらめずに治療を続けるつもりなんだろう。それで二人は王都に――」


 自分でもよく分かりませんが、涙がポロポロとこぼれてきました。


 私の判断は間違っていなかったのです。


 それがかつて私が愛した婚約者でした。


「やれやれ。感情で領地経営はできんよ」

「感情をなくしては、人間ではありません」

「そう。そこでうまくバランスを取るのが経営、ってもんなんだ。コンサルの仕事さ」

「両家の領地はどうなるの?」

「そうきたか。調べておいたよ。王国預かりだが、経営権は競売にかけられる。俺が思うに入札金額は――」

「何とかしてその競売で落とせないかしら?」

「当然金はない。しかし有力貴族様が自ら経営なんてしないよ。必ず誰かに委託する。その程度でいいかな? ならば手が届く」

「さすがですね。あなたは優秀なコンサルタントさんです」

「そのためには、いくつかワタリをつけなければならない貴族たちがいる」

「私に何とかなるかしら?」

「なるさ。あんたがその気なら」

「はいっ!」

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【貧乏令嬢、婚約破棄される】~破産寸前のリューディア。婚約を破棄され領地経営破綻危機~ もう身売りしか道はないのですか? 川嶋マサヒロ @EVNUS3905

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