06「防衛クエスト」

 エドヴァルのとった作戦は単純でした。領地の警備強化です。魔獣の脅威は、やはり馬鹿にできないのです。


 冒険者クエストを発動して、初心者ばかりをかき集めました。


「安く使えるし小物相手ならば彼らでも充分なんだよ。俺が指揮しながら効率よく彼らを動かすから」


 これで労働者は農業に集中できます。


 同時にクエストに払う報酬を、一部農作物の現物支給としました。それは直接屋台などに売れるそうです。


「流通を二箇所ほど省けるから、それなりに差額が儲かるんだよなあ」


 昼食なども農家に頼み、炊き出しをします。これも駆け出しの冒険者たちには喜ばれました。


 私も冒険者の姿になり、父親から借りた剣を持ち忙しく働きます。


   ◆


 王都の友人たちから手紙の返信が来ました。皆で相談し、何とか私の力になろうと動いているくれるそうです。


 とりあえずは農作物を直接買い取る場所を探してくれました。この街の問屋に売るよりは、ずっと良い値段です。


「さすが。輸送は任せてくれ」



 大勢の初心者冒険者を使っての共同警備。そしてエドヴァルの提案により、危険な場所への集団掃討作戦がひじょうにうまくいきました。


 周辺の領主たちにも声をかけ、クエストの資金を提出してもらいます。そして広範囲に広げます。


 効率の良さに評判が評判を呼びました。


「これはこれは――。儲かる位だよ」


 差額はエドの収入となり、私の家の領地は格安で守られます。



「これが新しく共同警備を希望する領主たちのリストだ。見てくれ」


 その中にはリュハレル家の名前もありました。ユリウスの領地です。


「ここは断ってください。協力はできません」

「捨てられたんだってな。婚約破棄なんて王都にはよくある話だよ」


 私は久しぶりに屈辱を思い出しました。


 あの人はすがりつく私を足蹴にしたのです。


「商売に私情は禁物だぞ」

「わかりました……」


 正論には勝てない。私は素直に従うしかないのです。


   ◆


 経営は順調でした。借入金の返済と、経過の報告のため金融家のリュスターを訪れます。


「さる有力貴族のお坊ちゃまが、休暇でこちらの別荘にやって来ます。お相手をしてさしあげてください」

「えっ? それはベテランの仕事だと――。私、心の準備がまだ……」

「勘違いしないでください。家庭教師ですよ」

「あら、どなたなのですか?」

「さる貴族、としか言えません。内密にですね」

「はあ」

「失礼ですが、あなたのことを調べさせました。ミュルデル王立大学院卒業だとか」

「はい。家は経済状況も考えず、教育などにお金を出してくれました」

「それも主席だとか。他の学部すべて合わせですね」

「それはたぶん偶然です。ついてました」

「あなたならばたとえ大学院になど行かなくても、いずれ周囲が認めたことでしょう」


 とにもかくにも金貸し――、金融商のリュスター・ヒュヴァリは家庭教師の仕事を紹介してくれました。収入はやはり助かります。


 そして、それは素晴らしい出会いとなりました。内密のようですが王族系の貴族だったのです。


   ◆


「最近マジ魔獣の数が増えてるような気がします。それに力も上がっているような……」

「そうだな」


 若い冒険者の言葉に、エドは難しい顔をして腕組みします。


 小物相手の戦いとはいえ、魔力の行使はより強力な魔獣を呼び寄せる効果があります。


「初心者ばかり大勢集めればと思っていたけどなあ。さすがに大袈裟すぎたか」

「彼らも力が上がってきています。このまま続ければ……」


 私も心配になってきました。


「警備は領地の近くまで呼び戻そうか。しばらく戦いは控えるようにしよう」


 呼び寄せられた強力な魔獣の群れが、周辺の農地を襲うかもしれません。


 そうなれば私たちの責任問題にもなるのです。


「もう一つ手を打つか」

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