05「金融屋さん」

「いいでしょう。お貸しいたしましょうか」

「ありがとうございます。助かります」


 私はさっそく紹介された、金貸し屋さんを訪ねました。事前の根回しがあったからか、用件はあっさり片付きます。


「しかしそれには担保が必要です。金額に見合う。ご用意いただけますか? 」

「担保?  お金は返すのだから、よろしいではないですか?」

「そうはいきませんよ」

「しかし……」


 屋敷にはすでに担保設定がされている。今となってはもう担保などなかった。


 あるいは領地の一部、ということになるがそれは避けたい。


 商売の元がなくなっては本末転倒だ。


「お嬢様自身の体で結構ですよ」

「体? 私のですか?」

「そうです。当商会専属の娼婦になり、借金を返済していただきます」

「それは以前に、価値はないと言われましたが……」


 私はまたまた名刺を出します。


「ここと、私どもは違いますよ。我が商会は令嬢しか扱いませんからね」


 と言って書面を提示します。


「これらのコースによってお貸しできる金額は様々ですよ。複数選んでいただいても結構です」


 一、お金持ちのおじさんたちコース。

 二、某騎士団員のお相手コース。

 三、場末コース――。


 と書かれている。金額の大きさは順番どおりだ。


 一は高額だが、それに見合う屈辱が伴う。

 二は体がもたないだろう。

 三は安すぎるし、そもそも選ぶなど論外であろう。まあ、これならば自分でも勝手にできる。


「どれも私にはちょっと。素人ですし……」

「大丈夫ですよ。素人が良いと言うお客様も多いのです」

「他にも何かありませんか? たった三つから選ぶなど」

「そうですね第四のコースも、あるにはあるのですが――」

「それは何ですの?」

「貴族のお坊ちゃまに女性の素晴らしさを教える、初物コースです」

「! じゃ、それで」

「バカを言わないでください。これは一から三までをそつなくこなす、ベテランでAクラス娼婦の仕事です。失礼ですがあなたのような、ド素人には無理ですね」

「バカはないですよお――。はあ……」


 まあ、それはそうだろう。我ながらバカな反応をしてしまった。


 いやあ、わりと自信はあるが。えへっ。


「あなたは値打ちは一と二の半々、としておきましょうか」


 これでもう、なんとしても経営を立て直すしか道がなくなった。


 失敗すれば我が身が獣の群れに蹂躙されてしまう。まさに背水の陣である。やるしかない!


 初物には断られるし、散々な展開である。

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