04「経営コンサル」

 その場所は街外れの貧乏街でした。


 通りに並ぶバラックの店が、さまざまな商売の看板を掲げています。


 その中の一枚が目に付きました。紹介されたコンサルタントの事務所です。


 私はノックして扉を開けました。


「あのー」

「ん? 何か用か?」


 振り向いた男はまだ若くて、なぜか冒険者の姿をしています。年配者を想像していたので意外でした。


「商業ギルドで紹介されまして……」

「ああ、経営コンサルの話か。まあ座んなよ」


 まずは互いに自己紹介をします。


「私はリニクライネン家のリューディアと申します」

「俺はエドヴァル・オウティルだ。エドとでも呼んでくれ。ああ、こんな格好しているが経営のコンサル全般をやっている。といっても領地絡みになると自分で魔獣の対応をするんだ。まあ、零細だし冒険者の真似事もやっているのさ。口だけのコンサルじゃないんだな。書類と帳簿を見せてくれ」

「はい、どうぞ。私のことはリューと呼んでください」


 話の内容からしては信頼できそうだ。ギルドでは内容に見合った相手を紹介すると言っていた。


 ここが流行っているようには見えないが、背に腹はかえられない。


 私はもう崖っぷちなのだ。


「胡散臭いって思ってるかもしれないが、俺はこれでも大学院で経営学を学んだんだ」


 オウティルは書類を読みながら一応経歴など話す。


「あなたも王都の大学院で?」

「ああ、ミュルデルだ」

「あら、私も同じですわ」

「学部は?」

「文化芸術学部です」

「あんな何の役にもたたないところか。どおりでな。俺は経済経営学部だった」

「そうですか!」

「王都の中堅貴族の五男坊で、継げる領地なんかなかったからな。で、今のところ何か具体的に行動しているか?」

「融資は断られました。後は王都にいる友人たちの手紙を出した位ですか……」

「だろうな――」


 エドは帳簿から顔を上げた。


「――この状況じゃぁ、どこも金を貸してくれないなあ。俺の方から心当たりを当たってみるよ」

「よろしくお願いします」

「王都の有力貴族連中から、直接情報が届くのは有利だな。うまく商売に結びつけられれば……」

「あの、私の依頼を受けてくるのですか?」

「条件がある。その情報に俺も一枚かませてくれるか?」

「それはもちろん結構です。コンサルタントをお願いするのですから、当然かと思いますが」

「それは助かるよ。こちらが礼を言いたいくらいだ。俺にも運が向いてきたぜ」


 私は友人たちの顔を思い出す。持つべきは友だ。


「念のため卒業証書を見せて欲しい。今度持ってきてくれるか?」

「はいもちろんです。王都では経歴を偽る者も多いと聞きますし」

「悪いね。信用していないわけじゃないんだけどね。明日、今くらいの時間に来てくれ。それまでにいくつかネタを考えておくよ」

「分りました」


   ◆


 翌日に私は再びエドを訪ねる。卒業証書を差し出した。


「首席の紋がある。あんたの名前、どっかで聞いたと思っていたんだが……。本当に出席だったのか」

「はい、そうです」

「そこはもっと自慢してもいいんじゃないのかなあ?」

「そうですか? 運ですよ」

「運ねえ……」

「あなたも王都に友人が多いのではないのですか?」

「俺の知り合いは腕力自慢ばかりでね。頭の人脈は君が強い――。さて、検討してみたがとりあえずは正攻法を進めるしかないな。収穫の効率化と流通。相場を見ながら、品をどこに運ぶかだ」

「運転資金がほとんどありません」

「いい金貸しを紹介する」

「貸していただけるのですか?」

「返せないと大変なことになるようなところだ。体を売るとかな。覚悟はあるか?」

「もうスカウトされました。価値は低いそうですよ」

 私は名刺を出した。

「ご存知ですか?」

「ああ、こいつか。Fクラスだって言われただろう?」

「そうです。私に女としての商品価値なんかほとんどありません」

「こいつは誰にだって、最初はFって言うんだよ。それが交渉ってモンなんだ」

「じゃあ私は――」

「いいとこCだな。そっちはワリが悪いし諦めな。商売の成功だけを考えよう」

「最初からそのつもりです。なんとか領地経営を立て直さなければ。父と母の面倒も見なければなりませんから」

「そのいきだ。動機が大事なんだな」


   ◆


「私ってCクラスの女子なのね」


 自室の鏡に姿をさらしました。


 婚約者を奪っていった令嬢は、金も魅力もAクラスに違いないです。


 私は、このまま家が破産すれば完全に負けだと思いまし。

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