02「我が家の状況」

「見返してやるっ!」


 自宅に帰った私は、惨めな気持ちを覆い隠すように気を吐きます。


「やめとけよ」

「そうですよ」

「必ずあの浮気男を。見返してやりますっ!」

「だから、なんだかなあ……」


 父と母は事前にリュハレル家から相談を受けていました。


 この件はあくまで当人同士の話し合いで、と結論をだしていたそうです。


 最近はどの貴族も領地経営がおもわしくありません。


 弱小貴族ほど追い詰められています。


 私たちが結婚し、両家の経営統合が立て直しの方策と期待されていました。


「どうすれば……」

「なるようになるさ」


 父と母は楽観主義――というより、もはや状況を達観しておりました。


 経営難はもっと大きな構造的な問題です。


「いざとなったら、お前は娼婦にでもなったらどうだ。たぶん贅沢三昧できるぞ」


 当家は貴族とは名ばかり。多少普通より上の貧乏暮らしです。


「何を言うのですか、お父様」


 これはもちろん冗談です。


「いや、もちろんそれはとっかかりだよ。王都の有力貴族の愛人にでもなれば、贅沢三昧という意味だ。お前にはそれだけの教養を身に付けさせているからな。そして美貌は――」

「そうですねえ。私譲りですから」

「じゃあ私はこれから、ぜひお父様のようなお方に見染められたいと思います」

「それはやめときなさいな。結局貧乏になって苦労するのだから」

「おいおい、まだ苦労すると決まったわけではない。娘の親孝行に期待しようではないか」

「そうですね」


 両親ときたらこの調子で、まるで状況を楽しんでるようです。先が思いやられます。


 私の容姿は母親譲りで、瞳の色は父親似でした。


 魔力はそこそこだけど、そのような訓練は全く受けていないので未知数です。


 ただし才能がないとは分かります。


「せめてとは思って、ちゃんとした学校ぐらいは行かせたが、それでも婚約破棄とはなあ……」

「学問はお金にはなりません」

「で、どうするんだ?」

「とりあえず、王都の学友たちに手紙を書きます。力になってくれるかもしれません。相談くらいならのってくれるでしょう」


 私は四年にわたり苦学を共にした、友たちの顔を思い出します。


 そして考えを巡らせます。


 まずは運転資金の調達。


 商業ギルドへ行き、融資先と経営の相談役を紹介してもらう。


 幼き頃は領地経営も安定し、それなりのお金があった。しかしある日を境に風向きが変わりました。


 あれよあれよと言う間に少ない財産を食い尽くし、そして今や貧乏貴族と世間から揶揄される存在になりました。


「新しい相手はヴァイノラ家の令嬢だ。あっちは金があるからな」

「そう……。要はお金があればいいんでしょ?」


 愛だのなんだの言ってはいたが、やはりお金の力は大きいだろう。貧乏同士が結婚してもやはり貧乏なままだから。


 自力で解決しなければ後がないと決心する。


 金は天下の回りもの。常に人から人へ回っているもの。いつかは私たちの元にも回って来る。


「絶対に見返してやるわっ!」


 明日から私の、貧乏なんか追放してやる作戦が始まります。



 そう息巻ましたが、夜ベッドに入るとやはり不安になります。


 なぜユリウスはこのような決断をしたのか?


 やはりお金なのか?


 涙が流れました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る