LESSON*7 日曜日

 日曜日の朝。

 恭介の声に、意識が浮上する。

 

 また起こしに来たのかな、と思ったところで、違和感を感じた。


「――有紗ありさは行かない」


 誰かと話しているようだ。

 うとうととまぶたを開けると、わたしのとなりに寝転がった恭介が、電話をしていた。

 はだかで。


「――理由? ははっ」


 一気に目が覚める。

 恭介が、あざけるような声を出した。


「――初めて・・・だったのに、無理させすぎたから」


 スマホから、誰かがわめく声が聞こえる。

 恭介がニヤリと笑って、通話を切る。

 その手のスマホは、背面が白なので、私のだ。


 こちらを見た恭介と、ばっちり目が合った。

 そうだ。昨日わたしたちはーー。


「盗み聞き? やらしいわね」


 彼は半眼で顔をしかめる。

 オネェ口調に戻っているが、がっしりした肩がシーツからのぞき、目のやり場に困る。


「志摩とのデート、断っといたから」

「え!?」


 びっくりして起き上がる。


「見せつけるほどの自慢なボディなわけ?」


 恭介の視線をたどると、自分の裸が目に入った。


「どわっ」

 

 あわててシーツにくるまる。


「ぶっさいくな声」 


 ツンと顔をそむけた恭介の、両耳が赤かったことに、あわてふためいていた私は気付かなかった。


「映画が見たいなら、行くわよ」


 恭介が、スマホを手に取る。

 背面が黒だから、今度は彼のだ。

 

「最近の映画って、アニメばっかり」

「あー、たしかに」

「あ、あんたこれ好きだったじゃない。これにするわよ」


 彼が見せてきた画面には、なつかしいキャラクターが映っていた。

 むかしハマっていた少女漫画が、映画化されたものだ。


「うわ! 映画化してるなんて、知らなかった!」

「決まりね」

「うん。……あのさ、せっかくだから、コーディネートしてもらった服、そのまま着てもいい?」


 言ってから、ずうずうしい発言だったかな、と恭介をちらりと見る。


「べつにいいわよ。対価はもらったから」


 恭介のようすが、どこか気まずそうだったので、ふしぎに思って聞き返す。


「対価?」

「言ったでしょ? 処女、食われてもいいなら見立ててあげるって。それを実行したまでよ」


 意味を理解した瞬間、私の顔が一気に赤くなった。


「え、あ、きょーちゃん、そういうこと」


 ゴツッと殺人デコピンがとんできた。


「いたっ!」

「『恭介』と呼びなさい」


 色素の薄い茶色の瞳が近づき、唇をやわらかくまれる。 

 恭介の優しい動きに、ぎこちなく合わせていると、少しずつまじわる角度が深くなっていく。

 さいごに音を立てて、唇が離れた。


「……恭介」

 

 なかば無意識に、そう呼ぶ。


「よろしい」


 恭介がにっこり笑う。

 そして、ベッドわきに手を伸ばし、何かをつかむ。

 それがレディースシェーバーであるのを見て、嫌な予感がした。


「あの、恭介?」

「昨日のつづき、やるわよ」

「映画、行くんだよね?」


 私の言葉を、恭介が笑い飛ばす。

 色素の薄い瞳が、きゅっと細まった。


「まだ早朝だから、だいじょうぶ」

「……なにが?」


 おそるおそる聞いた私に、恭介が口角を上げる。


「おまえがまた発情しても、もう一回ぐらいはやる時間があるってこと」


 恭介は、誰が見ても男だと即答できる顔で、楽しそうに笑った。






 おしまい!

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オネェ男子と、みがけ女子力! 黒いたち @kuro_itati

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