主人公の鳳来恵は、中退していなければ現役女子高生という設定ですが、そんなレベルではないオトナっぽさとオトコマエっぷりを披露する美人さんです。
名門高校の生徒から受けた、チェーンメールにからむ奇妙な事件の依頼をきっかけに、恋人(!)の響子、事件に関与する無双女子高生の真奈美、謎の黒猫と共に世代を超えた因縁に立ち向かいます。
危うい日常、交錯する思いと情報の断片、変貌していく世界が、硬派な筆致で描かれて読者を惹きつけます。
見事な構成力で練り上げられた本作、きれいに完結しつつ次の展開も見越したラストに、作者さまの本気がうかがえます。
映画を観る気分で、御一読お勧め致します!
タイトルから好みでわくわくしていたのですが、いきなりの猟奇的な展開がとてもいいですね。生命に支障はなくても嫌な傷、というのは確かにあるのですが、耳はまさにそれですね。血が首元にしたたる光景が脳裏に浮かんでぞっとしました。
そして一話から繰り広げられるアクションも派手でいいですね! 不気味な敵に二転三転する状況に機敏に反応する主人公は、知性があって素敵です。「頭が良い」と書かなくてもキャラの個性が伝わる書き方がとても良かったと思います。
しかしその主人公をもってしても、防げない怪異……止まらない事件。先が見えない中、「これは本当に乗り切れるの?」と聞きたくなってしまいますが、この主人公ならきっと乗り切ってくれるような気がします。ちょっと怖がりなのですが、楽しく読ませていただきました。
この小説を語る上で外せないのは、やはり文です。
細かい心理・情景描写。バトルシーンの描写から伝わる迫力、謎に迫るにつれて増す緊迫感……。
それを一言で現すなら、私は
「文字と言う名のスクリーン」
と言うでしょう。
映画を見た人ならわかるはずです。巨大なスクリーンに流れる迫力満点の映像に大音響。シートに座って映像を見ているのに映像の中に飛び込んだ感じになりますよね?
私は、この小説を読んでいるときに同じ感覚に陥りました。「自分は映画でも見ているのだろうか」そう思ったのです。
リアリティ溢れる本格的な物語を読みたいという方は、一度読んでみてください。
……そうすれば、私の言う事は本当だと気付くことになります。
この作品は、当初から「この文字数で決着させよう」という考えで執筆された……ということがよく分かります。
結婚式のスピーチなんかもそうなのですが、ひたすら長く長く長く書くより、予めこの分量と決めて書く(或いはしゃべる)ほうが遥かに難易度が高いのです。つまりこの作品は徹頭徹尾計算され、むしろコンパクトに仕上がっているものということ。これだけで、作者さんの水準以上の技量が十二分に伝わってきます。
そして、この作品は「怪奇現象を取り扱う探偵事務所の話」ですから、そのことをなるべく早く描写しなければなりません。しっかりそれをこなしているから、Web掲載の小説にありがちな冗長な印象が一切ありません。このあたりは高く評価するべきでしょう。
ただ、気になった点がひとつ。恵と響子が恋人同士ということは、地の文での説明よりも何かしらのインパクトのある描写でもう少し早く強調するべきではないかと感じました。ここは作中で最も重要な人間関係なのですから、「口で説明」するより先に「ちょっとした動作で表現」するほうが優先順位は高いはず。それを上手くやれば、わざわざ地の文で「私の同性の恋人であり」と書く必要はなくなると思います。
私自身カクヨムのサイト内ではファンタジーとちょこっと恋愛を読むぐらいの人で、とても久しぶりにオカルトもの? 探偵もの? を読ませていただきました。
すべてにおける描写や会話の描かれ方がとても緻密かつ丁寧で、とても読みやすい印象をうけました。
作者様は漫画を意識されて書いておられるということでしたが、やはり私としては最後までドラマや映画として映像で流れているようなイメージが強く、本当に実写化してくれたら面白いだろうなぁと感じる気持ちを禁じえませんでした。
普段読まないジャンルであったにもかかわらずとても引き込まれる作品でした。紹介していただけてとてもよかったなと思っています。皆様も一度覗いてみてはいかがでしょうか。