第一話 太陽の動かない世界
この世界の太陽は動かない。
どこに移動しても、どんな場所にいても、常に自分の真上に太陽があって、雨でも降らない限り、世界の人々を休む事なく照らし続ける。
昔の人は太陽が自分達について来ているとも考えたが、はっきりとはわかっていない。
ただ、一切沈んだりする事もなく太陽は照り続けている。
太陽と常にあるこの世界をウィズサンという。
ウィズサンには広大な土地や澄んだ色の海が広がっていて、所々に人々の住む国や村が点在している。
人が住んでいるのはその広大な土地の一割にも満たないが多くの歴史を過ごし、人々は生活をしている。
その国や村の中の一つのとある国。
アンドロ帝国と言われる国がある。
人口も面積もウィズサンの中で一番を誇る国で、交易が盛んで何人もの商人が行き交っている。
そして今日も、商人が国の入り口で入国審査を受けていた。
・・・
国を覆う巨大な壁の上には小さな小鳥が数匹止まっていた。
「大丈夫そうだな。違法品などは積み入れてなさそうだ」
その言葉を聞いた商人は安心して、ホッと胸を撫で下ろして、ようやくこの国に入れることを喜んだ。
多くの馬車群を率いて、このアンドロ帝国を訪れたので審査にかなりの時間がかかっていた。
後ろにもまだ行列があって、かなりの時間を待たせてしまっている。
審査をしているのはアンドロ帝国の帝国騎士団の兵士。
二人の男性兵士と一人のローブを着た女性。
商人は彼らがチェックする様子を眺めていた。
ふと、男性兵士の一人が言った。
「今日は入ってくる人が多いな。…あの人も手伝ってくれたらいいのに」
その呟きにもう一人が。
「あの人、絶対手伝ってくれないだろ。魔法が使えないのに魔導書ばっか読み漁ってさ」
彼らはどうやら、誰かの悪口を言っているようだ。
「まあまあ」
二人の話にローブを着た女性が宥めるように言った。
「あの人の今日の仕事はここの監視兼護衛だからね。それに、この事聞かれてたらどうするの?」
すると、二人は少し不安を抱いた後。
「そうだけど…。でも、なあ?」
「なあ?というか、アンタはあの人のペアじゃないか。だったら、アンタが手伝うのもおかしい事になるじゃないか」
「…まあ、そうなりますね」
そう文句を言いながら、男の兵士二人は入国許可状を発行し始めた。
ローブを着た女性は前にいる商人に近づいた。
「すいません。嫌な話を聞かせてしまって」
彼女は申し訳なさそうな顔をして、商人に謝った。
商人は顔の前で手を振った。
「いえいえ、大丈夫ですよ。貴女は大丈夫ですか?」
「ええ、気にしないで下さい。大丈夫ですから」
彼女は顔を上げて笑顔で言った。
「まあ、部下は上司のいない所で悪口を言うのも一種の仕事みたいなものですからね。私もよく、上司の悪口を言っていますし」
「ふふっ、一種の仕事みたい。本当にそうかもしれませんね。…そういえば、この馬車を見ている限り本をお売りになるつもりですか?」
彼女の質問に商人は答える。
「ああ、そうだが。本を売るなら三十冊以上用意しておいた方がいいと聞いていたのだが本当なのかい?」
「ええ本当ですよ」
彼女は商人に説明をする。
「この国には図書館が三十館あるんですよ」
「そうなんですよ。だから、全ての図書館で同じ本を揃えたいので三十冊は必ず売れますよ」
そして彼女は指を差した。
「国に入ったら、まずは王宮に向かうといいですよ。図書館に本を入れる為の窓口があって、そちらを利用すると三十冊が売れるはずです」
「そうなのか。それはいい事を聞いた。ありがとうございます」
そして手続きが終わった商人は馬車を連れて王宮に向かって行った。
彼女は商人を見送った後、次の馬車の手続きに取り掛かろうとした。
すると、壁の近くの兵舎から一人の男が出てきた。
軽めの服装に胸当などをしている銀髪の彼は彼女の方を見てこう言った。
「メルト。少し外に行くぞ、ついて来てくれ」
「えっ、あ、はい。わかりました」
彼女…メルトは入国審査所に立てかけてあった杖を持った。
彼は背中には大剣、懐に短剣を装備していた。
そしてこちらに来ると、兵士二人に言った。
「お前達二人、悪口はもっと小さな声で言った方がいいぞ」
「「⁈」」
二人は背筋をピンと伸ばし、驚きを隠せずにいた。
「ということで、罰として残りの今日の業務は二人でこなせ。これは副騎士団長命令だ」
「「ええっー⁈」」
兵士二人の悲痛な叫びが響いた。
しかし、彼らには目も暮れず。
「よし、行こうか。メルト」
そして二人は国の外の平原を歩く。
太陽は変わる事なく照っており、雲も少なく、雨は降りそうにならない。
何より、心地よい風が吹いている。
メルトは考えていた。
今日は何日和であると言えばいいのだろうと。
冒険日和?
ピクニック日和?
それとも…デート日和?
メルトは考えるのをやめて彼に聞いた。
「えっと…。今はどこに向かっているんですか?私達」
彼は残念そうな顔をした後こう言った。
「本当なら散歩したり、寝転がって、昼寝したり読書でもしたいんだけどな」
彼は正面を指差した。
メルトがその指し示すほうこうを見ると、その先には巨大な牛が興奮状態でこちらに向かっていた。
高さ七メートルくらいの牛だ。
「あれは…!」
「地中から現れた魔力液を飲んだんだろうな。このまま来られたら、国が一溜まりもないですよ!…早く兵士をかき集めないと!」
魔力液を飲んだ生物は魔物化すると言われている。
どう変化するかはランダムだ。
メルトが焦りながら援軍を呼ぶ為に戻ろうとすると、彼は止めた。
「いや、必要ない」
背中の大剣を引き抜いて、構えた。
「俺だけで討伐する。
「…」
そういえば、この人がいれば大丈夫だったと取り乱していた意識を冷静にした。
「
メルトは彼に聞くと。
「そうだな…。折角だし、列に並んでる商人達にステーキにして配ろうか。あと、あの二人の兵士にも」
メルトは自分が使える炎の魔法を発動し、彼の剣に武器付呪を行う。
魔法によって、攻撃の性質も変わる。
「よし、じゃあ行ってくる」
彼はかなりの重さのありそうな大剣を軽く振り回して、走り出す。
相手はかなりの強敵だが、メルトは心配をする事もなく、彼が向かってくる牛に走って行くのをただ見つめていた。
彼に心配なんていらない。
この国の剣を操る人間の中で最強の男。
アンドロ帝国騎士団副騎士団長。
アンドロ帝国五大貴族の『剛』の家、レイスタング家の長男。
フォルツ・レイスタングにとって、あの敵を倒すことなど、ただの作業にしかならないのだから。《ルビを入力…》
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