第四話 特別任務
翌日。
フォルツはいつもより早めに身支度を済ませて、屋敷を出た。
フォルツには魔術学園に通う双子の弟と妹がいるのだが、二人より早く屋敷を出るのは久しぶりだった。
本当はそんなに早く出る必要もないが、王に謁見するのなら早めに行くべきだろうし、他にしておくべきことがあるから早く出たのだ。
レイスタング領ののどかな道を歩いて王宮区へ向かう。
アンドロ帝国はその中心に王宮がある『王宮区』がある。
王宮区にはそこには、帝国学園や帝国騎士団本部などの重要施設に加えて、盛んな商業区が多くある。
そしてその周りを囲むように五大貴族が管理する五区が存在する。
そしてそれぞれの屋敷はアンドロ帝国は壁の側にあるので、フォルツは王宮に向かうにはかなりの距離がある。
馬車を出して王宮へ行くのがいいのだろうが、そんなことのために馬を起こすのもどうかと思うのでフォルツは歩くのだ。
それに、朝の運動にもなる。
やがて王宮区に着き、いつものように活気付いている商業区を抜けて、王宮でなく、帝国騎士団本部へ向かう。
「「副団長!おはようございます!」」
本部の側にいる騎士達がフォルツを見ると、敬礼をして挨拶をする。
フォルツは軽く挨拶をして、本部に入っていった。
帝国騎士団本部。
訓練場や作戦本部などがあり、騎士団員の管理を行われている。
仕事の割り振りなどは王宮からの事務員をはじめ、『知』の家、ケントニス家の長男、ゲニー・ケントニスが行っている。
…フォルツは彼とは仲良くないが。
そして、訓練や戦闘指揮などは騎士団長のアンシュが行っている。
フォルツは騎士団副団長なので彼女の補佐だ。
ただ、補佐だけでなく普通の任務もこなしている。
入国審査所の護衛や監視。
帝国の壁の外の魔物退治から帝国の中の事件の解決、さらには帝国学園の講師まで。
フォルツは研究に没頭して多少怠け癖があるものの、大量の仕事をしっかり遂行しているのだ。
ふと、フォルツは隣を歩く一人の男に気付く。
「…おはよう」
「…」
ゲニー・ケントニスだ。
帝国騎士団員で事務長も務めている。
フォルツは彼と関わるのが好きではない。
ゲニーはフォルツを嫌っているのだ。
ゲニーがフォルツを嫌う理由も分かるのだ。
彼より年下でありながら、彼の目標である副団長にまで昇り詰めたからだ。
自分も同じ立場なら、同じ事を考えていたのじゃないかと思っているのだった。
「…」
ゲニーは横目でフォルツを一瞥した後、すぐに去ってしまおうとする。
「すまん。待ってくれ」
フォルツは振り返ってゲニーに声をかける。
「今日、王宮からの呼び出しがあるんだ。今日の俺の帝国学園の講師の仕事を自習にするか他の教師の仕事に変更しておいてくれ」
ゲニーは俺の言葉を聞いて、ポケットからメモを取り出してその内容を書いていた。
「…呼び出しの内容はなんなんだ」
低い声でゲニーはフォルツに問いた。
「わからない。昨日いきなり呼ばれたんだ」
フォルツがそう言うと、チッとゲニーは舌打ちをして、その場を去っていった。
世の中ままならないなと、フォルツは思わずにいられなかった。
・・・
本部を出て、フォルツは王宮に向かった。
王宮の前の兵士に手紙を見せて、王宮に入る資格を得て、中に入る。
王宮に入るのは、そう簡単な事ではないので、フォルツは少しドキドキしていた。
王宮の入り口には、本の売り場があり、人々が簡単に来ることができるのはそこだけだ。
「フォルツさん!」
王宮のホールに見目麗しい女性が両隣にガードマンを従えて立っていた。
「ノーブルか。久々だな」
ノーブル・アンドロ。
アンドロ帝国第一王女で、四年前までのフォルツの帝国学園時代、フォルツと共に青春を過ごした人物だ。
「お元気でしたか?騎士団での生活はどうですか?」
「どれも普通で変わりないさ。ノーブルはどうなの?お姫様の職務とかは大丈夫なのか?」
「ええ。四年前までの貴方みたいな人がいなければ、全然楽ですよ」
「それを言われたらな…」
フォルツは武術に関しては特出していたが、一般教養は苦労した。
当時仲良くしていたノーブルにいつも助けられていたのだ。
「ただ、フォルツがいなかったら、静かでつまらないですけどね…」
「そ、そうか…」
そんなこと言われても、どうすればいいのかフォルツは困るばかりだった。
「そういえば、国王は俺になんの用で呼び出されたんだ?ノーブルは何か知っているか?」
「ええ。まあそれは、直接聞いてください」
ノーブルに案内されて、玉座に向かう。
フォルツは赤い階段を足音をあまり鳴らさないように気をつけながら歩いた。
「…フォルツはまだ魔法の勉強をしているのですか?」
「…そうだな。まだ、諦めてない」
「そうですか…」
フォルツは思う。
ノーブルさえ、自分が無謀に魔法の勉強をしていると思っているのだろうかと。
ならやっぱり、自分は諦めるべきなのかと少し考えてしまう。
「…でしたらきっと、今回はフォルツにとっていいものになると思いますよ?」
「?」
フォルツが疑問を抱いた最中、玉座に到着する。
とりあえずはその疑問を払拭し、王の前に正しい所作で歩き、膝をつく。
アンドロ国王。
千年以上に渡る長い歴史で、変わることのないこの国の一族だ。
「面をあげよ」
フォルツはそっと顔を上げる。
そして、しっかりと国王の方を見た。
「帝国騎士団副団長。フォルツ・レイスタング。父上は変わりないか?」
「はい。家族皆、元気であります」
「そうであるか」
しばらくの沈黙があって、国王が言う。
「其方に、ある特別な任務を頼みたいのだ」
「了解しました。全力で完遂してみせます」
国王直々の特別任務。
一体それはどんなものなのかと、フォルツは考えた。
「国営図書館の帝国で二十八番目の図書館。『知』の区にある『ツバイアハト』の護衛と調査の任務を其方に頼もう」
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