第六話 いざ、任務へ

フォルツは王宮を出て、すぐそばの帝国騎士団本部へ向かう。

本当はすぐにでも『ツバイアハト』に向かいたいのだが、ノーブルに言われた通りに、騎士団長に伝えなければいけない。

フォルツは早足に騎士団本部に向かう。

王宮に来る前に来た時よりは騎士団員の人数は圧倒的に減っていた。

どうやら、皆それぞれの持ち場に行ったらしい。


「あ、フォルツさん」


騎士団長室へ向かっていたフォルツは声をかけられる。

廊下ですれ違った彼女は昨日も一緒に任務をしていたフォルツのパートナー、メルトだった。


「メルトか。確か今日は…」


メルト・メディケ。

アンドロ帝国五大貴族、『医』の家、メディケ家の三女。

回復の魔法を得意とするメディケ家の令嬢でありながら、母親が『魔』の家、プレスディ家の人間なので魔法全般を得意とする。

プレスディ家の出身の母親ということは、メルトは帝国騎士団団長のアンシュと従姉妹同士となるわけだ。


「今日はフォルツさんと帝国の外周辺の魔物の駆除だったんですけど、フォルツさんが王宮に呼び出されたとの事で私は非番になってました」


「そうだったのか。悪いな」


「別に構いませんよ。王命なんてなかなかないことですし。…それで、一体何のようだったんですか?」


「いや、その、なんだ…特別な任務が出てな」


内容までは話すわけにはいかないフォルツは歯切れが悪そうに答える。


「そうなんですね」


「ああ…。だからしばらくはここに顔を出すこともなさそうだな」


「…⁈そうなんですね…。帝国の外に出るんですか?」


「いや、外には出ない。国内にはいるが、まあ、あまり顔を出すことは減るな。行っても多分王宮になるだろうし」


「そうですか…」


「すまんな。俺が抜けるってなったら、一番迷惑をかけるのはお前だな…」


メルトはフォルツの言葉を聞いて、首を横に振る。


「いえいえ、大丈夫ですよ。それより…」


メルトは少し口籠もった後、上目遣いでフォルツに言う。


「時々でもいいですから、顔を見せてくださいね。私もアンシュ団長も騎士団の皆さんも、フォルツさんの顔を見ないと寂しくなるかもしれませんし」


「メルトや他の皆はともかく、アンシュ団長はどうだろうな?」


フォルツは冗談めかして言う。


「案外、寂しがるかもしれませんよ?」


「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。とりあえず、アンシュ団長に挨拶してから、俺は行くよ」


「わかりました。頑張って来てくださいね!」


「ああ。じゃあな」


別れを告げて、フォルツはメルトと別れた。

廊下を二人は反対方向に歩いていき、二人とも角で曲がる。

メルトは最後に一目、フォルツを横目で見た。


・・・


フォルツはノックして、扉を開く。


「誰だっ…て…。フォルツ⁈」


「おはようございます。団長」


ここは帝国騎士団団長室。

部屋の真ん中には団長席があり、重要な書類などが多くある。

部屋の隅には副団長席があるのだが、あまり使わない。

…ただ単に、フォルツは副団長と一緒にいるのが気まずいのだ。


「お話があって…って、どうかしましたか?」


フォルツが早速アンシュに本題を話そうとすると、アンシュの様子が少し不機嫌なのがわかった。

でも実際に言葉に出すわけにもいかないので、質問するしかない。


「昨日」


「…昨日?」


昨日は確か、父親のツァールトに王からの手紙を受け取って…と考えてフォルツは思い出す。

図書館を出た時に、アンシュと会ったことを思い出した。


「…あれは、団長が変な事を言ったからじゃないですか」


「何が変な事をだ!」


「そんなこと言われても…」


いきなりお茶に誘われても、どうしていいのかわかるわけないだろうとフォルツは思う。

あの時、お茶に付き合うべきだったのだろうか。


「まあ、それは置いておいて。しばらくここを離れることになりました。それの挨拶に来ました」


「え、は、離れるっ⁈」


「はい。王命の特別任務によりしばらくは普通の常務も抜けることになります」


「⁈…私、聞いてないぞ」


「ええ。俺も今日言われたんで」


「その任務の内容は?」


「極秘なのでお答えすることはできません」


なんだかアンシュが焦っているようだが、フォルツは気にも止めない。


「では俺はこれで。しばらくはよろしくお願いします」


「ちょ、ちょっと待て!」


フォルツが団長室を出ようとすると、アンシュが止める。


「そ、その、期間はどれくらいなんだ」


何故期間を知る必要があるのかとフォルツは考えたが、確かにシフトを組むのに必要かと考える。


「まだ不明です。では、分かり次第連絡しに来ますね」


「…連絡しに来れると言うことは、国内での任務か?」


「ええ、まあ」


別にメルトにも言ったしいいかと、フォルツは思いアンシュに言う。


「じゃ、じゃあたまには顔を見せに来い」


「そんなメルトと同じことを言わなくても…」


「む、メルトにも同じことを言われたのか?」


「まあ、はい」


なんだかフォルツにはアンシュが歯噛みをしているように見えた。


「言われなくても、顔くらいは度々見せに来るつもりですよ。では」


そう言って、フォルツは団長室を出る。

フォルツはアンシュのことを嫌いというわけではない。

苦手というわけでもないのだが、少し遠ざけたいという気持ちがあるのだ。

間違いなくフォルツにとって彼女は憧れの存在であり、いつか辿り着きたい場所だ。

だからどうも、アンシュと一緒にいたくないという謎の感情がフォルツに現れるのだった。


・・・


『ツバイアハト』。

帝国で二十八番目の評価の図書館

『知』の区の街の中にある街の雰囲気に似合わない木造の図書館。

街のあまり人の寄り付かない道に、その図書館はあった。


「ここか…」


フォルツはようやく見つけたと、胸を撫で下ろした。

フォルツはそんなに『知』の区、ケントニス領に詳しくはない。

魔法を使わない未知の力、科学を用いたこの街は頑丈そうな建物が至る所に建っている。

『ツバイアハト』の場所をフォルツが周りにいた人々に聞いても、わからない人が多く探すのもやっとだった。

ここが、しばらくのフォルツの勤務場所。

確か、司書から話を聞けとノーブルに言われていたはずだ。

キィィィ、と音を立ててフォルツは扉を開く。

中は綺麗と言われれば綺麗だし、汚いと言われれば汚いと思うような普通の木造の建物だった。

いつも帝国で一番目の評価の図書館である、『アインス』に通っているフォルツからしたら汚いと思わざるを得なかった。

本は棚に入っているものもあれば、無造作に置かれているものもある。


「おーい。司書さんはいるかー?」


図書館で大声を出すのもどうかと一瞬悩んだフォルツだったが、誰もいないだろうと思いいるであろう司書さんを探す。

上の階に続くであろう木の梯子もあり、趣があるといわれたらあるのだろうと思うフォルツだった。


「おーい。司書さんじゃなくても、誰かいないのかー?」


そう声を出しながらフォルツが歩き回ると、『関係者以外立ち入り禁止』の部屋を見つける。

俺はもう関係者だし、恐らくはここにいるかもしれないと思ったフォルツはゆっくりと扉を開けた。

そして、そこには…。


「…ムニャ、ムニャ」


大量の本で作られたベッドの上で眠る金髪の幼女を、見つけた。

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