レベル

真花

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 巣鴨に幼馴染と来た。男女だけど私たちには恋なんてない。彼が道ゆく人々を眺めて、呟く。

「これだけ居たら、レベル上げ、サクサク行くよね」

「倒すの!? 汚れ……はあるかもだけど、罪……もあるかもな、おばあちゃんでレベル上げはダメ!」

「でもさ、レベルってあるよね」

「例えば?」

「モヒカンのレベル」

「モヒカン?」

「レベル1、ソフトモヒカン」

「ああ、ちょっと前に流行ったよね」

「レベル2、頭の左右を坊主にする奴」

「仄かな悪意が香るけど、今流行ってるやつでしょ?」

「レベル8、スキンヘッドにスパイクを直接、前後で直列で埋め込む奴」

「いきなりレベル上げ過ぎ! コツコツ行こうよ! って、そんな人会ったことないよ!」

「いや、巣鴨によくいるじゃん」

「どんな老人だよ! 見たくないよ戦後を支えた方々のスパイクヘッド!」

「トゲ抜きに来るんだって」

「どこのトゲだよ! 頭から抜いたら、血がブシュー、って大惨事だよ!」

「レベルM A X、磯◯波平!」

「モヒカンって、残り一本じゃないの! て言うかあれは本人的にはモヒカンなの!? フネは何も言わないの!? 日曜の夕方をパンキッシュに染めないで!」

「僕の頭はレベルゼロだけどね」

「普通の坊主でしょ」

「寝相のレベルもあるよね」

「私は寝相は悪いよ」

「レベル1、『布団なんて嫌いだ』」

「そうね、起きたら掛け布団が端っこに追いやられて」

「どうして風邪引かないの?」

「知らないよ! 昔からそうなの!」

「レベル2、『きっとダンゴムシになった夢を見ている』」

「子供の時に君に証拠写真を撮られた奴ね。でもダンゴムシの夢じゃなかったよ」

「じゃあ何ムシ?」

「ムシじゃないよ! 団子になる夢」

「食べられるのをじっと待ってたの!?」

「違うよ、みたらしに沈む穏やかな時間だったの」

「苦しくないの?」

「起きたら足が痺れて、しばらく団子は食べられなかった」

「同族愛? レベル7、『まさかの直立』」

「起きた瞬間、びっくりするのよ! え? 何で天井にドアがあるの?」

「稀有な経験だね」

「役に立ったことはないけどね」

「レベルM A X、『三点倒立』」

「それは流石に人生で一回だけだったね」

「え!? あったの?」

「データに基づいてるんじゃないの?」

「え、あ、うん、データがあります」

「でも、意外と直立より驚かないんだよね、景色としてぐちゃぐちゃなのと、頭に血が登ってるからかな」

「睡眠中の行動としてぐちゃぐちゃだと思うけど」

「そう言う君は寝相はどうなのよ?」

「大体、『す』の字で目が覚める。何故か毎朝ズボンは脱げてる」

「幼馴染の寝姿は見てはいけないのね」

「電話をかけたときに、待ち受け時間に音楽を流す設定ってあるじゃん」

「大体途中で切れて、あぁん、ってつんのめる気持ちになる奴ね」

「それの、レベル1、『Bメロから始まって、サビだ! ってところで電話に出られる』」

「めっちゃつんのめる」

「レベル3『ケン◯ロウの声で「お前はもう死んでいる」と繰り返し言われる』

「私は死んでなーい!」

「レベル5『ほらカツ丼だ、食え』のリピート」

「私何の取り調べされてるの!? 電話に出た相手が『白状しろ!』って言うに決まってる!」

「レベルM A X、『蚊の羽音』」

「プーーーーン、プ〜〜〜〜ン、って、煩わし過ぎて電話叩きつけそうになるよ!」

「レベル上げ、したくなったでしょ?」

「必死な抵抗は空ぶったまま!」

 私たちは巣鴨を後にした。


(了)



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レベル 真花 @kawapsyc

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