生死を別つ《刹那》が人生を語る

新撰組に憧れて隊士となった男《信三郎》は見廻りの最中に薩摩の浪士と遭遇してしまう。不運。偶然。あるいは必然。隊士になったからにはいつか、こんなときがくるとわかっていた。
握り締めた刀。京の空に浮かぶ寒月。張りつめて肌にひりりと刺さる冬の空気。敵にいつ斬り殺されるかわからぬ死線にあって、走馬燈のように循る昔日の思い。故郷に残してきた家族のこと。
ああ、死にたくない。

……呻りました。
いやはや、素晴らしい手腕です。卓越した心理描写と情景描写。思わず読みながら呼吸を詰め、こぶしを握り締めていました。

何分、何秒。あるいはほんの刹那かもしれない。一瞬に詰めこまれた《信三郎》という男の人生が、読者の胸を打ちます。

これぞ、短編小説の凄み。
素晴らしいものを読ませていただき、感謝致します。