26年前

8. 化け猫おちる

 この世の地獄か石つぶて

 哀れな男に情けはなしや

 刀ぎらりと光れども

 真昼に月が降ってきて

 あいや妖しの化け猫さまが

 おいらを天にのぼらせた

 あーこりゃ、あーこりゃいい匂い



「恥ずかしいから匂いのくだり変えようよ。なんで入れたの? 絶対そんなはずないんだけど」

(そこは同感であるな。あの時は、何日も着の身着のままで過ごしておったのだし)

「右目殿もそう思うってよ?」

「いや、ユエさん、本当にいい匂いしたんですって。幻の紅沈香チャンフンドゥもかくや。そこは譲らない」

「もう」

「お腹のすき具合はどうです?」

「わたしの? 居候の?」

「ユエさんの」

「まだ平気。お腹すいたの?」

「はは、実は」

「いいよ。いったん止まって、お昼にしよう」

「あ、そうだユエさん」

「なに?」

「愛してますよ」




「また、急に、そういうこと言う……」

「どうです?」




「……もう」



<化け猫おちる 完>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

化け猫おちる 帆多 丁 @T_Jota

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ