歳を取らない化け猫の少女の、長い旅路のうちの一幕。
ファンタジーです。タグの「亜熱帯怪奇譚」という語そのままの、エキゾチックで伝奇な冒険譚。上記の「歳を〜〜一幕」の一行、あらすじを一行で要約するにしても、かなり漠然としたまとめ方をしてしまったのですけれど、どうしても〝こう〟紹介したくなってしまうお話。手に汗握るアクションがあり、また心躍る設定の楽しみもてんこ盛りで、なによりきっちりドラマがあるのですけれど、でもお話の筋そのものは直接読んで体験して欲しいというのがあります。ここで触れてしまうのは勿体ない!
ネタバレ、と言っては大袈裟なのですけれど(ミステリにおけるトリックなどのような「わかると台無し」みたいな要素があるわけではないので)、でも感覚としてはまさにそれ。読み進めて〝何か〟を知っていく感覚自体が面白みになっている部分があって、その仕掛けが実に巧妙でした。「主人公が記憶の欠落を起こしている(作中で起こす)」設定が完璧に活用されていて、しかもそれが「何か解き明かされるべき謎」のように作用するのではなく、感情や感覚の面で効いてくる。
欠落の内容が〝何〟であるか、その客観的な事実そのものは相棒からの証言として語られ、でも物語としては描かれない。創作物である以上、読者にだけは簡単に見せられるはずのところ、でもそれをしない。ずっと失くしたままの状態であり、それが主人公の体験をそのまま読者に共有させる働きをするとともに、その深刻さをも皮膚感覚としてわからせてくれるという、その威力がとてつもないことになっていました。アクションありの爽快なファンタジーで、終わり方もすっきり綺麗なのに、置き土産にきっちり〝現実(その中で生きる彼女の)〟の重たさを残していってくれるという。いやもう、すごいものを喰らわされました。大好き。
一応、本作自体は短編連作の三話目で、特に主人公の抱えたものの根幹に迫っていく内容ではあるのですけれど、でもひとつの独立したお話として読める、というのも魅力です。というか、この内容で短話として面白いのがすごい(普通、過去の開示って連作だからこその強みでは?)。どう転がしても面白くなるよう練られた設定(化け猫とその相棒、呪いに歳を取らない設定など)の魅力と共に、単純に話作りの巧みさまでもが光る、骨太かつ極上のファンタジーでした。すごいよ!
化け猫ユエの、長い旅の途中のお話。
どうしてユエが化け猫になったのか、どういう理由でそれが成立するのか、そのための代償とはなにか……。猛スピードで駆け抜けながら、ひとつずつ明かされていくそれらが、理解できればできるほどに切ない。
お腹に住み着く厄介なもののせいで、存在自体が危ういユエなので、どんなに満たされていても、いつ「なくなる」ことになるかわからない。喪失への不安と、だからこそ守りたい大事なものへの思いが、読み進めるほどに迫ってきました。
そしてユエは、強い思いを抱えて「おちる」。抱えているものの重さすら振り払うようなこのシーン、ユエの宿命に散々悲観させられた挙句のラストシーン。読み進めるごとに色味を変える物語世界ですが、着地するのがそこだとは思わなかったです。
しかしそれもまた長い旅の中で「なくなる」かもしれないことを知っているからこそ輝くという……最高。
読み終えてもまだいつまでもユエと相棒の旅について考えてしまう。全部不思議なのに、全部がリアル。彼らは本当にまだどこかを旅しているんじゃないかと思ってしまいます。
あとおいしい平麺について参考になる箇所がありますのでそこにも注目してほしいです。