島で暮らす少年が、不思議な猫の化物に出会い、命を救われたりするお話。
ファンタジーです。どう見ても、何度読んでも、まごうことなき立派な異世界ファンタジーそのものなのに、まるで歴史ものでも読んでいるかのような気分にさせられるのは何故? 読み終えて「はー世の中にはこんなこともあるのか大変ねー」となって、その五分後くらいにやっと「いやファンタジーだったこれ」となる、そのどこまでも柔らかく自然な筆致の妙。
とてつもないです。もはや「読んでいる」のではなく、情景の方から勝手に脳の中に生えてくるかのようなこの読書感覚。書かれているもののすべてが瑞々しく生々しい、この一分の隙なく組み上げられた見事な世界観は、まさにこの作者さんならではのものだと思います。
物語そのものは王道も王道、少年が不思議な少女に出会い、共に苦難を乗り越えるといったお話の筋。つまりは成長と冒険の物語で、またキャラクター造形も魅力に溢れ、もうこれ以上ないくらいにファンタジーしているのは間違いないのに、でもこうしてレビューにしてしまうと実際に読んだ手触りとはだいぶ印象が変わってしまう、というこの不思議。端的な説明では絶対に伝わらない、細部に宿る神の力を見せつけられたような気分です。
最高でした。冒頭わずか数行を読んだ時点で、圧倒的な解像度で世界が立ち上がってくる、大きくて気持ちの良いファンタジーでした。
民間伝承的な奇譚パートの雰囲気が素晴らしく、同時に現代的なキャラ付けを仄かに加えられた化け猫様が生き生きとしてて、なんとも良い組み合わせだなあと思った。ちょっとした病で命を落とし得る中世日本的世界観で、ラッキースケベすらサービスしてしまう獣属性が出てくるとか、欲張りすぎでなかろうか? いいぞもっとやれ、と登場人物たちを応援したくなる。
設定が自然にスッと入ってくるのは、まさに書き手の技量を感じさせる。昔を回顧しているという体で話が進むのも、何ともよい余韻が残る。
スピンオフというにふさわしく、またどっか別のところにこの化け猫様が現れるのだろうなという予感がある、というかもう既にあるのか。