あらたな「勇者」の人となり。(下)

「だいたい、たった4人で無計画に突入するのは現実的じゃないですからね」


 実に冷めている。シュンの担当になったのは『あたり』だった。


「そもそも命令もあやふやですし。こんなので、今までよく機能してましたね?」

「ああ、たいていの奴は舞い上がって突撃してたんだよ」

「この命令で?『魔王討伐せよ』って書いてあるだけで、そもそも魔王って何なのか定義すらしてない。『魔王』ってただの俗称なんですし、これじゃターゲットが何なのか言ってないも同然ですよ」


 鼻にしわを寄せるシュン。

 ま、そりゃそうだ。正確な言い方をするなら、ターゲットは『非友好種族の違法戦闘集団のボス』なんだし。しかもそいつは一人じゃないときてる。


「ま、私にはありがたいのでこのままで良いですけどね。討伐のための準備作業計画でも立てましょうか」

「目標も判らないのに討伐計画かい?」


 レジナがにやにやしている。


「後日、具体的な目標が示されることを前提に、準備するんですよ」


 シュンもにやにや。


「目標が示されていない以上、我々の仕事は準備ですよね?」

「その認識で間違いはないと思うよ」


 レジナのにやにやが大きくなった。


「それに、私は工事のほうが得意です。事前準備の土嚢どのう積みなら任せてください」

「土嚢かよ」

「あとはタコツボと塹壕ざんごう掘りですね」

「それ、野戦築城じゃねえの?」

「おや、よくお分かりで」

「なあ、前職聞いていい?」


 同業者の匂いがするんだが。


「若い頃、陸軍にいました」


 やっぱり同業者だった。


「で、準備するにしても問題は、私たちがどこまでやれる権限と予算と物資を持ってるか、ですね」

「うーん、割と適当なんだよな、そのへん」

「予算は限界あるでしょ?」

「あるな。前進基地構築とか言われたら、とてもじゃないが足りねえ」


 小僧一人が暴走して突っ込んでいくのをどうにかする程度の予算なら、部隊でもやりくりしてくれるが。それ以上となると、規模によっては無理だ。


「まーそのへんの予算確保はかその直接の部下にでも頑張ってもらうしかない案件でしょ。私たちは偵察用に拠点構築をめざすくらいでしょうかね」


 なんかやけに『めざす』に力入れたぞ。

 ところで。


「星?」

「将軍のことです。弊社だと、階級章に星がついてたんで」

「あ、なるほど」

「それで、ですね。私って言ってみれば、階級もろくに与えられず協力を強制されてる民間人でしょ?星の仕事まで出しゃばっちゃいけないと思うんですよねー」

「分を弁えるって重要だよな」


 ルザークが噴出した。


「でもな、何もしないでいると、それはそれで煩いぞ?」

「そこはほら、他のチームと協力しちゃいけないとも書いてありませんし。たとえば、今偵察に出てるチームの支援するのは可能ですよ」


 よくぞ言ってくれた、とばかりにうなずいてる奴がシュンの背後のテーブルにいた。

 シュンみたいな支援型がほとんどいないせいで苦労している、偵察専門「勇者」チームの奴である。ここに回されてくる奴の大半が勘違いバカなんだが、奴のチームの「勇者」は情報収集を重視する慎重な性格で、こんなところで3年も生き延びていた。


「ふむ。支援対象を選ぶのに条件はあるか?」

「冷静な人で。味方の流れ弾が当たる確率の高い人には、協力しにくいです」


 大人しそうな顔してるが、言ってる内容は立派に俺らの同類だ。俺らと同じ現実を見てるのが良く分かる。


「たまにいるよな、嫌われすぎて仲間の流れ弾が当たってる奴」


 ルザークがにやにやしている。


は少ない方が良いものねえ」


 レジナも微妙な笑顔。

 それにシュンも笑顔でうなずいたが、目は全然笑っていなかった。

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勇者はパーティーメンバーを追放したい 中崎実 @M_Nakazaki

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