あらたな「勇者」の人となり。(上)

「また異世界人『勇者』のお守って、マジすか」


 そう言いたくなるのも判るけどな。


「あいつらは部隊に入れるとまともに連携取れないから、しかたないさ」


 諦めてくれるとありがたい。


 俺達は特殊工作員支援部隊、通称「勇者パーティー」のメンバーである。なんの冗談だと言いたくなる通称だが、一般国民向けの説明だとこれが判りやすくて良いんだとさ。

 で、俺達がどう思っていようが、お守しなきゃいけない『勇者』はやって来るんでな。俺たちの精神衛生上、色々諦めといたほうが良いんである。


「まあ、素人ばっかですからねえ」


 ルザークがため息をついていた。


「いきがったガキでなければ、御の字さ」


 こないだ訓練所送りにした『剣豪』は、典型的な勘違いしたガキだった。

 ま、生き延びる才能はあっただけマシな部類だろう。ダメな奴になると、初戦で戦死するから。


 いや、俺達にとっては逆なのか?下手に生き延びられると手間ばかりが増えるし。


「で、次に担当しなきゃいけないのはどんな人?」


 レジナは割と冷めている。


「異世界人って、個体の戦闘力だけで何とかなると思ってる人が多くて、面倒なのよねえ」

「あ、その点は大丈夫そうだぞ。今回は地味な普通の奴だ」

「『英雄になれる俺スゲェ病』患者じゃなさそうって事?」

「うん、評価を見る限り冷静な奴だな」

「珍しいわね?」

「期待通りだと良いんだけどねえ」


 全く同感だった。


──────────


 そして数日後にやってきたのは、俺らとそれほど変わらない年齢に見える、ちょっと冴えない感じの男だった。


「よろしくお願いいたします、シュン=アキナと申します。シュンと呼んでいただければ。アインさん、レジナさん、ルザークさんですね」


 礼儀正しいのは非常に好印象。異世界出身の奴の場合、『特殊スキル』を持ってるってんで舞い上がってる奴も少なくないからな。


「よろしく。レジナとルザークは支援戦闘要員、俺は兵站担当だ」

「ああ、ありがたい構成ですね」


 にこっと笑うシュンは、およそ戦闘に向いて無さそうに見えた。

 ちゃんと筋肉が乗った体つきからすると、良いもの食って育ったんだろうというのは判る。ただ、こいつは剣を使うような人間じゃないと動きですぐわかる。


 足音はしないがな。


 そういや、あの『剣豪』のガキは、踵から叩きつけるような雑な歩き方がいっこうに直らなかったな。あんな歩き方をしていれば敵に居場所がバレるのは当たり前なんだが、それを理解しようとしない間抜けってやつだ。ドスドス音を立ててガサツにふるまうのが『男らしい』と勘違いしてたあいつは、およそ戦うことに向いていなくて、本人はいっぱしの戦士(笑)のつもりでいたようだけど、よく敵に発見されてたよな。


 ま、訓練所に叩き返したガキの事はどうでもいい。それより重要なのは、今度の「勇者」が何をできるかだ。


「早速だが、どんな戦闘が得意か伺いたい」

「徒手格闘や剣術は、あまり得意ではありません。得意なのは遠隔攻撃と、土木工事です」

「へえ、それでこの部隊に入ってくるのは珍しいな?」

「正直に言うと、私もこのお話をいただいて驚きました」


 珍しいな。


「冷静だな」

「そうですか?」

「俺たちがこれまで面倒見てきた連中は、選抜された時点で舞い上がっちまってるのが多かったんだ」

「若い人が中心だったようですからねえ。『勇者パーティー』の違和感に気が付かなかったんじゃないですか?」


 あいまいな微笑を浮かべているが、シュンの目は冷ややかだった。


「へえ?あんたはこの『パーティー』をどう思ってるんだ?」

攪乱かくらん目的で素人を突っ込ませるのが主目的かなと思いましたよ」

「攪乱だけだと思うのか?」

「いくらサポートがあっても、素人が敵地に忍び込んで破壊工作と暗殺を実行するのは、ちょっと難しいかなと思いまして。派手に宣伝して素人を目立たせるのに何か意味があるとしたら、本命から目を逸らさせることくらいかなと思うんですよね」

「そこまで理解してて、話を受けたんだ?」


 レジナが張り付いた笑顔のままで聞いていた。


「ええ、まあ。選択肢を潰されましたから」

「ああ、国のやる事だからなあ……あんたはどんな手でここに追い込まれた?」

「ちょっと正直すぎるぞ、ルザーク」


 ま、こんなところに付き合わされてる時点で、何かあったと言ってるようなもんだがな。


「私は構いませんよ。異世界民駐留届は出してあったんですが、別人のものだとされまして。無届就労と難癖付けられた上に、ここの仕事を受ければチャラにしてやると」

「ああ、強制徴募隊にとっつかまったか……」


 あいつらそのくらいは普通でやるからな。


「ここに来る時に契約書、書かせたか?」

「もちろんです。今度は言い逃れできないように、署名の他に指紋と魔力を登録しておきました」

「最初に駐留届を出した時は、しなかったのか?」

「署名だけで良いと言われたので、やらなかったんですよね」

「届を書いた本人だと証明するのに、指紋か魔力の登録が要る、てのは説明されてなかったのか」

「最初に届け出た役所では、署名だけで良いと」


 役所への届け出をするなら、あとで本人確認が出来るように、一緒に指紋か魔力を登録しておく必要があるんだが。もちろんこのへんの届け出は国によっても違うから、異世界人なんかじゃ説明されない限り判らんだろう。


「……たちがわりぃな」


 こっちの事情にうとい異世界人を騙したのか。


 どういうわけか、異世界人って奴は異常なほど強い事が多い。騙してあとから便利使いできるようにしておくことに、国としても利益がある。

 だからってやって良いもんではないけどな。胸くそ悪い話だ。


「ええ、たちが悪いですね。あれで国に好意的になると思っているあたりが、笑えますが」

「まあ好意なんか持たんわな。で、好意的でないあんたとしては、どうするつもりだ?」


「破壊工作はしませんからご心配なく。私も食べていかなきゃいけませんから、楽に食べさせてもらうために全力を尽くします」


「いいね、あんた気に入ったよ」


 レジナがにぃ、と笑った。


「そりゃどうも。積極的に敵陣に突っ込むことはしませんし、華々しい活躍もしない。ただ、契約期間を無事に乗り切って生還することを目標にします。ああ、もちろん、理解してくださる方と切り離されるリスクは回避の上で、ですね」

「現実を見られる人が来てくれて、俺も嬉しいよ」


 こいつとなら、いい仕事ができそうだった。

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