勇者はパーティーメンバーを追放したい
中崎実
追放?できるもんならやってみろ。
「おまえはもう要らないんだよ。わかるか?」
ものすごいドヤ顔して言い放つ馬鹿一人。
うん、馬鹿だろお前。とやや冷めた気分で聞いてる俺がいる。
「おまえのスキルは役立たずなんだよ!
「何度か説明したと思うが、俺は
荷物を運ぶだけが仕事だと思ってる馬鹿がおる。
そもそもその荷物、運ぶ以前にどうやって調達するんか考えてないだろ、コラ。
行動計画を踏まえて必要になる物資の種類と量を見積もって、適切な時期に入手できるように手配して、不用品や廃棄物の回収を頼んで、それら全てを予算と時間の範囲内でやってるんだが。ぶっちゃけ広範な知識と計算能力、交渉能力がないと成り立たない仕事をこなすわけで、だから兵站『スキル』はいわゆる『上位スキル』である。
実際には「それさえ持ってりゃあとは勝手に仕事してくれる、お手軽お便利なスキル」なんてものがあるわけじゃなくて、訓練して出来るようになるだけなんだけどな。
クソ地味なのは認める。
「だから!荷物運んでるだけの!スキルだろ!!」
「それ言うなら、お前のスキル
まあ一応、こいつには『剣豪』という能力があるとされている。
が。
それだけじゃ武器のメンテナンスすらできないんだぞ?それ弁えろよ。おまえが調子こいて無駄に全力攻撃した後始末や、剣のメンテナンスがどれだけ面倒だと思ってるんだ?
しかも、現場に予備の剣なんか持っていかなくて良い、とおまえがほざくおかげで、俺の独断で用意してやってる予備を使い果たすたびに、修理のために街に戻る必要生じてるからな?あれただの無駄だからな?
「で、もっかい確認するけど、おまえ何が言いたいの?」
「出ていけ!追放だ!!」
「おまえが決める事じゃないぞ」
「僕が!リーダーだ!!」
「おま、ほんっと勘違い激しいのな」
たしかにこいつは、突入する時に現場で行動を決めて良い、という権限を持たされている。
しかし、しょせんそれだけだ。
脳筋突撃バカを現場でコントロールするのは事実上無理なので、奴らが何かやらかす事前提で、その時だけ手綱を緩めているだけである。こいつが何か考えて方針を決めて皆が従っているわけではない。こいつは制御困難なので、好きにやらせているだけだ。
そもそもの誤解もあるし。
「あのな、このパーティーは国選の討伐隊だって判ってるよな?」
「あたりまえだ!僕は選ばれたんだぞ!」
「パーティーメンバーを誰にするかは」
「僕が決める!」
「阿呆。国選パーティーの人事権は軍が持ってんだよ」
スキルと呼ばれる特殊技能を持つ……とされる人間を集めて、組織した部隊。それがこの魔王討伐隊だ。
魔王ってなんだよそれ、と笑った俺たち軍人とは対照的に、一部の人間はスキルを盲目的に信用し、『高いスキル』を持つことに舞い上がっている。だからこういう貧乏くじの仕事にも文句は言わない。
文句を言わないばかりか、熱心に修羅場に突っ込んでいってくれる。いい鉄砲玉ってわけだ。付き合わされる
「それにだいたい、そんな話を酒保でする馬鹿があるか。場所を考えろ」
「酒場で話すのがテンプレだろ!」
「情報保全も知らんのか、クソタコ」
そろそろこのガキ放り出した方が良いんじゃないですかね?
天井近くにふよふよ浮いてる
『話は記録した』
スクリーンに文字が浮かび上がるが、いきがってる阿呆には見えていない。俺に波長を合わせてあるから。
「俺にもおまえの人事権は無いから、これ以上は言わないけどな?訓練所に戻されたくなかったら」
「僕は勇者だぞ!」
クソタコの叫びに、周りから噴き出す音がいくつか発生した。
「ばぁか、おまえ自分のこと買いかぶりすぎだ」
周りがゲラゲラ笑いだしたのに気を取られて、俺のいう事なんか聞いちゃいなかった。
俺たちは以前から『アレ』の相手をしているから、魔王と勇者の物語なんてものはそもそも信じていない。俺たちが対峙しているのは非友好的異種族で、その異種族の中でも特に好戦的な集団のボスを暗殺する計画がある、という現実を見ているだけだ。
魔王だ勇者だなんてのは、一般国民向けの判りやすい御伽噺である。俺らの中ではもはや笑い話でしかない。
「ギルドランクも!僕のほうが!」
冒険者ギルドのこと、だよな、これ。
「おまえのもとの所属、
「冒・険・者・ギ・ル・ド!!」
「あぶれものに仕事を世話したのがルーツだぞ、あそこ」
ちなみに、今も性質は変わっていない。
誰でも登録できて仕事を請け負えるが、割と雑用が多い。誰でもできる仕事なんだから、専門性は高くないわけだ。
一部勘違いした人間がいきがっているが、本当にできる人間は寄せ場を足掛かりに他の仕事に就き、いずれ去っていくのが常である。
「おまえだって登録してるだろう!」
「そりゃ、子供の時に登録するだろ、普通」
小遣い稼ぎにはちょうどいいので、十かそこらで登録する奴は割といる。俺もご多分に漏れず、小遣いが欲しいガキの頃に登録して、せっせと小遣い稼ぎに励んだもんである。寄せ場が仕事内容を一度チェックしてから募集がかかるから、個人で仕事を探すよりも安全ということもあって、親達がうるさいことを言わないのだ。
登録をわざわざ抹消する手間は、普通かけない。何かあって失業でもした時に、とりあえず小銭を稼ぐ手段として使えるからだ。
「ギルドランクが高いって、自慢することじゃねえよ……」
どこかのテーブルで誰かが言ったのに、馬鹿が顔を真っ赤にして立ち上がった。
すかさずその肩を抑えて座らせたのは、『国選パーティー』の狙撃手レジナだった。
「ギルドランクが高いって、意味わかって叫んでんの?」
「僕の方が優秀ってことだ!」
「お馬鹿。他の仕事に着けなかったって証拠なのよ?」
「な!」
「そろそろ、この国の仕組を覚えなさいよ。いつまで勇者様ごっこやるつもり?異世界人だからっていつまでも大目に見ないわよ」
そう、この馬鹿は異世界人。
どの神のどんな気まぐれか知らないが、この国には時々ぽろっと、この世ならざる場所から人が紛れ込んでくる。
本人たち曰く、異世界に来たんだと。
とりあえずどっかの国の密偵じゃないことを確認できれば、俺らとしては連中が異世界から来ようが地の底から湧いて出ようが、関係ないけどな。
「ランク高い方が偉いに決まってる!」
「他の仕事に就けない長期利用者ってだけだぞ、それ」
俺なんかもそうだけど、ギルドランクは子供の頃に貰ってそれきりになる奴が大半だ。他の仕事に就く13歳~15歳くらいまでに獲得したランクがそのまま残る。
だから早いうちに仕事に就いたり、学校に行くようになったりしたやつは、低いランクのままになる。
狩猟や採取で身を立てるようになる連中も、そのくらいの年になればちゃんと猟師や採取者の組合に入れるから、寄せ場は卒業だ。ランクもその時点で上がらなくなる。
つまりギルドランクが上がり続ける奴は、寄せ場以外の仕事が出来ないという意味で……あまり褒められたものではない。
「じゃあなんで金なんてランクがあるんだよ!」
「そりゃ、長くやってた奴にご褒美が無いと辛いからだよ」
子供の頃はランク目当てにも頑張ったから、ランクが上がって嬉しいのは俺らも判るし。
「話を戻すぞ。おまえには『パーティー』の人事権は無い。おまえが誰かをクビにするのは無理なんだ」
「僕が!リーダー!!」
「頭冷やせクソガキ」
俺が言うのに合わせて、バカの後ろに立っていたルザークがジョッキの水をぶっかけた。
「なにをすr」
そして鳩尾に一発ぶちこんだのは、レジナだった。
「……相変わらず、やる事が過激だな、おい」
レジナ渾身の一撃に、馬鹿がうずくまっていた。
「このバカに好きな事言わせてたら、周りが笑い死ぬわよ」
「おっと、そいつは困る」
にやにやしながらこっちを見てる奴が何人もいる。俺に向かって親指を立ててる奴も。
「おい馬鹿、吐くなよ」
「僕は、馬鹿じゃ、ない」
「いい年して魔王と勇者ゴッコしたがってる時点で、アホだと気付け」
現実を見て仕事しろと。
「荷、運びの、くせにっ!」
あ、ルザークが後ろ頭を張った。
「なあアイン、こいつについては報告しておくか?」
まあそうなるわな。
さすがに組織の在り方すら理解してないとなると、再教育をした方が良いと報告せざるを得ない。
「いや、俺から報告する。宿舎に放り込んでおいてくれ」
「了解。おら、行くぞ勇者サマ?」
やさしさの欠片もない手つきで襟首をつかみ、ルザークは『勇者』を引きずって酒保を出て行った。
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