0-1

    


 ◇




「はーいどうもこんにちはー」



 突然の聴き慣れぬ声に、私ははっと振り向く。



 先ほどよりも色彩の明度がうっすら落ちたようなオペ室の中は、なんの匂いも音もしない。



 それどころか。気がつけば。



 動いているものが、何もない。



 スタッフも。時計も。すべてのメーターもモーターも。



 かろうじて動いているのは、モノポーラを持ったまま細かく震えているこの手と。




 いつの間にかわたしの背後に立っていた、黒い人影だけだった。



 ーー人影? 



 ーーしかも、黒い?



「あれ、驚いちゃった? そりゃそうだよね驚くよねー」



 青緑色の術衣を着た医療従事者以外が入れるはずもない、このオペ室という空間に、真っ黒なスーツ姿の妙にひょろりと背の高い男が忽然と現れていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る