凄絶な戦いの傍らで、深山竜胆のような人情が咲く歴史作品

 陸奥国で起こった前九年の役、東北地方に伝わる白糸姫伝説と金売り吉次伝説を題材に描かれた、合戦と恋の歴史物語。執拗に繰り返され、長きにわたった戦の悲惨さや凄絶さがありつつ、敵陣営なのに恋に落ちてしまった男女の切なさや、ささやかな平穏に満ちた陸奥国の姿が丁寧に描かれています。

 作品タイトルの白狼姫こと、陸奥国の勢力・安倍氏の末娘である一加は、勇ましくも繊細な面を持った姫君。敵である源義家と恋に落ちてしまう彼女は、長い戦いへ身を投じ、義家とも戦場で会敵することに。義家との恋で女性らしさや可愛らしさを覗かせますが、戦へ臨む際には心の揺らぎと覚悟を見せてくれる、可憐ながら凛然として美しい女性です。
 一加と恋に落ちる源義家は、爽やかで明朗な好青年。武家の御曹司として将来も見込まれている彼ですが、真っ直ぐすぎるが故に、戦の中で渦巻く陰謀に苦い思いを味わってしまいます。
 周囲に翻弄されながらも、ただ逢いたいと願い進む健気な二人の行く末が、一つ目の見所です。

 二つ目の見所は、謀が渦巻く合戦や駆け引き。登場人物たちの戦に臨む姿と普段の姿、そう変じる過程、抱く思いが浮き彫りとなり、いっそう入れ込んでしまいます。また、敵味方を問わず、良くも悪くも身内への情の深さが窺える描写が多々あり、もっと登場人物たちを身近に感じさせてくれます。
 ただ平和を願い、平和を勝ち取るために動く者。野望に目を光らせて動く者と、混沌の情勢を駆け抜ける戦士たちは恐ろしくも魅力的です。戦場を駆け抜けた者たちがいかに戦って散り、いかに生き延びて新たな生を歩いていくのかは、一見の価値あり。

 一加と義家を始め、登場人物たちがどんな結末を迎えるのか。前九年の役を知っている方も知らない方も、ぜひ見届けてください。

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