跋二 お茶会2
「どうして、いつも貴女は私の邪魔ばかりするのです?」
メアリーベルは、メルティオラを睨みつけながら、もう何度目になるか分からないほど吐きつけた言葉を呟いた。
「キミの邪魔をするつもりなんかないヨ。たまたまボクの目的の前にあった邪魔な物が、キミのしでかしたことだったってだけサ」
メルティオラは出された紅茶を一口含むと「コーヒーのほうがいいネ」と言って、その味を打ち消すように自ら持参したチョコレートを頬張った。
「まぁ、今更争っても仕方のないことですね。それで? 今度はなんの用ですか? さっき帰って行ったと思ったらすぐに現れて、せわしないですよ」
メアリーベルのほうも、人間のように背筋を伸ばして、座ったまま紅茶が入ったティーカップに手を伸ばす。その姿は猫であるが、動作は人のようである。どのような感情を抱いたのか、手が震え、カップとソーサーがカチリと音を立てた。
「うん。キミに頼みがあって戻って来た」
「頼み? もう十分貴女の頼みはきいてではないですか。この期に及んで何を言い出すのですか?」
メリーベルは警戒を隠さない。何度となくメルティオラに出し抜かれた経験が、メアリーベルの身体を自然とこわばらせていた。
「そんなに身構えないでおくれヨ。キミにもメリットがある話なんだからサ」
「メリット? どのようなメリットですか?」
メリットと聞いて、少しだけ目の色が変わる。しかし、それでもメルティオラが嘘を吐いている可能性を捨てきれないメアリーベルは、完全には警戒を解くことをしない。
ただ、興味はあるようで、いくらか尻尾の揺れが大きくなった。
「ふふん。キミは精神操作系の魔法を回収しているんだろう? その一端をボクが担ってあげるヨ」
「話が見えませんね。もう少し具体的にお願いできますか?」
ピンと立った耳をピクリと動かして、ほんの少しだけ身体をメルのほうに乗り出す。「話が見えない」と言いながら、もうすでに悪い話ではないと思い始めていた。
「だいたいの想像はつくだろう? キミに返してもらった
「その見返りはなんですか? 貴女の望みはなんだというのです?」
自分が享受するメリットをすぐに理解したメアリーベルは、すぐに自分が提供するデメリットに目を向ける。
「ということは、条件次第で飲むつもりがあるってことだネ? キミに翠の魔法を弱めてほしいんだ。あいにくボクは時を司る魔女だろう? 精神操作系の魔法を自在に加工することはできないんだヨ。その点、キミは精神を司る魔女だ。翠の魔法を加工することくらいわけないだろう? それがボクの望みサ」
「なるほど。貴女の望みを叶えるためには私のメリットが不可欠ですね。いいでしょう。交渉成立です」
意外なほどあっさりと引き受けたことにメルティオラは少しだけ面食らう。多少めんどくさい交渉の必要があるであろうと覚悟していた。
メアリーベルにとっては、それほど大きいメリットだということだろう。もしかしたら、リッケンバックの評価に関わることなのかもしれない。
「そうかい。それなら早速お願いできるカナ?」
メルティオラは、少しの動揺も悟られないよう平静を保つ。魔女を相手にしては、砂粒ほどの付け入る隙も与えてはならないことを知っている。
「分かりました。どうやらお急ぎのようですし、私の方も貴女に心変わりをされては困ります」
メアリーベルの方も少しばかり焦った様子を見せていた。しかし、それも一瞬のことで、すぐにその動きを止め、ゆっくりとメルティオラの方に顔を向ける。
そして、わざとらしく大げさに手で顔を覆う。
「……あぁ、そうそう。それから貴女が今手にしているそのチョコレートという食べ物。私も気に入りました。それはすべて置いていってください。それも貴女の望みを聞いてやる条件としましょう」
メアリーベルは、ガラス玉のような眼玉を光らせて意地悪く笑う。
メルティオラは、誰が見ても分かるほど怒りながらもやむを得ず持参したチョコレートを差し出した。
「ふふふふふ。よほどあの人間のことが気に入ったのですね。それでは、望みどおり魔法の修正を行いましょう。安心してください。私は貴女と違って、今も昔も嘘を吐くことはありませんよ」
メアリーベルは懐かしむようにそう言うとメルティオラの目の前から消えていなくなった。あとにはメルティオラのやり場のない怒りと「余計なことを……」という捨て台詞だけが残った。
サルでも分かる!! 魔法相続入門 宇目埜めう @male_fat
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