気がついたら、自分の時計が欲しくなる——そんな物語。

 スマートフォンやスマートウォッチが普及し、いわゆる普通のアナログな置き時計など見向きもされない。淡々と時計そのものをどこか否定するような独白から物語は始まります。

 レトロな時計店を訪れた少年が出会ったのは、黙々と時計の修理に打ち込む職人。彼はほとんど少年には見向きもせず、少年もアナログな時計になど興味はないはずなのに、なぜだか興味を惹かれてその店に留まります。

 とある小さな事件と、店の中のすべての時計が「10時10分」で止まっている理由を通して、やがて気がつけば誰もがアナログ時計に愛おしさを感じるようになってしまう、そんなお話でした。

 特に、

「忘れてしまうと、時計じゃなくなるんですね」

 というフレーズが本当に印象に残る素敵な作品でした。