第2話 なんでこうなった

親父…俺はあんたをすごく尊敬してるよ。多分それは一生変わらないことだと思う。今日まで生きて16年、親父には感謝してもしきれないくらい色々助けてもらった。


でもよ…この仕打ちは勘弁だぜ。


親父と管理人さんの素晴らしいミスで男子禁制の仮宿に俺が入ることになっていた。しかし男子禁制の場所にノコノコと健全な男子が入れるわけがない。てか俺の理性が保てる気がしねぇ…。


「うし、わかったわ」


腕を組みながら管理人さんが口を開いた。


「おぅ、どうしたんすか」


そしてジト目で俺の方をじっと見ながら


「ここに住め」


「は?」


悪い管理人さん。思考が追いつかねぇ。一度整理しよう。まずここは男子禁制の仮宿だよな。そして男子禁制なんだよな。うんうん。そんでもって男子禁制であってるんだ。

いやダメだろがッ!


「察しが悪い奴は嫌いだな」


なんでキレてんだよ管理人さん。さっきよりも眉間にシワがよっておりますよ?


「まあいい。とにかく入れ、もうすぐアイツらが帰ってくる」


また無表情になって横開きのドアの鍵を開け俺の新しい家に管理人さんが足を入れた。本当にここに住んでいいのかすごい疑問を抱えながら重たい足を俺も新居に入れた。


俺が足を敷居に入れると同時に腕を腰に当てて管理人が俺を見下ろしている。段差があるから”今”は見下ろされてるんだ。

だが、威圧感ましてやがる…。


「自己紹介してなかったな。私は荒木瑠衣あらき るいだ。ここの管理人をしている」


やっぱりこの人は管理人か。すげぇ年齢が気になるけど女性には聞いちゃダメって言ってたからな。

親父…俺はあんたの言いつけ守るぜ


「へぇ〜何歳なん…」


ですか。あ…。しまったああああああああぁぁぁ!!!!!!!!!

思わず聞いちまったよちきしょう!でもしゃーねぇだろこんなんめっちゃ気になるんだからよ…!


心の中で喚きながら俺はそっと目を荒木さんに向ける。荒木さんは案の定俺をゴミを見るような目で睨んでいた。

やべぇ開始そうそうやってしまった…。


と、思っていたが


「22だ」


何事もなかったかのように答えた。

まあ、あれか若い人はまだ気にしないってやつだな。

頭を上下に振ってしっかり納得した。そう、これでいいんだこれで。


「若いっすね」


「当然だろ。まあいい、もうすぐ住人が帰ってくるはずだから事情を説明して納得してもらう」


若い人は年齢あんま気にしないんかな。うん、きっとそうだよな。


「してくれるといいっすけど」


心配なことがまた増える。

ああ、俺は女子が大の苦手なんだ。


玄関の近くの窓からは桜の木が見える。満開とまでは言わないがピンク色の綺麗な花が緩やかな風に吹かれて揺れている。その桜の花を太陽の日差しが抜けて俺と荒木さんにあたる。


日差しが当たるとこれまた映えるな…ってダメだ!これから一緒に暮らす人に性的目で見てはいかんっ!心を整えなければ。


(純粋純粋純粋純粋純粋純粋純粋純粋……)


「わからん。凛が変なことしなければ大丈夫なんじゃないか」


それじゃ私は着替えてくるから、と言って荒木さんはどこかに向かった。多分自分の部屋だろう。


何しようかソワソワしながら荒木さんが戻ってくるのを玄関の近くでウロウロしていた。


俺が行ったり来たりしてることに気づくと荒木さんは目を細めて見事俺を引いているようだった。


「…何やってんだお前。居間に行っておけと言っただろう」


「あ、そうだった…って、いや言ってねえよ!!」


ちっ、と荒木さんは舌打ちをし、何も言わずに俺を越して居間のドアをガラッとスライドさせ中に入っていった。俺も続いて居間の方へと向かった。


一体俺は今どんな表情しているだろう。荒木さん、女慣れしてない俺からすると超疲れるタイプなんだけど。いや、女慣れしてなくても割と疲れるんだろうか。


今になってもっと女子と関わっておけばよかった、と思い始めた16歳最初の春であった。


ほれお茶、と出された暖かいお茶を座布団に座りながらすすっている。正座して座っている俺の前には座布団を四つ繋げて昼寝をしている。

…なんて無防備なんだ。ここに男子がいることを忘れてるんだろうか。いや、俺は男として見られていない?!


そんな思考と葛藤しながら帰ってくる住人を俺は気長に待っていた。


昔ながらの縁側の窓は空いていて、外の風がサ〜っと入ってくる。犬の鳴き声や車の通る音、そして女性の声が居間の中に入ってくる。扉の開く音もこっちに向かってくる何人かの足音もここにいると心地がよい。


心地良さに負け、俺は足を崩して後ろに寝そべった。


そして目をつぶろうとしたその時俺の視界の隅に健康的な太ももが見えた。ああ、なんて良いものが見えるんだろう。


ははは。


ははは…。


はははは…。oh…心地良さで住人が帰ってくるのに気づかなかったぜ…。


「…なんで君が」


股間がヒューっと冷たくなるような冷たい声が耳にスっと入ってきた。


ん?ちょっとまてその口ぶりから俺の事を知っているような言い方だ。俺は女性と関わりは一切ない気がするんだが。


俺は体を起こし後ろを向こうとした。


その瞬間…


強い衝撃が脳みそを飛ばすかのようにガツンと入れられた。


ここに来ていい事より悪いことが多いかもしれない、気を失う前に頭によぎった最後の言葉だった。

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