第9話 ほぼ全員集合

チュンチュンチュン


そんな小さな鳥の鳴き声で俺は目が覚めた。

目覚まし時計もまだならない午前六時半。


「やっぱ初めて寝る場所だと寝付きが悪いな…」


その場で立ち手を上にやり伸びをする。

しょうもない事だが何気に毎日やってる気がする。


髪の毛を触るとツンツンと上がっている。

毎朝の事でもうなんとも思わんが、相変わらずの凄い寝癖だ。

鏡を見なくても分かるスーパーボッサボサヘアーだ。


布団はそのまま、重たい足を上げて部屋を出た。音が聞こえる居間には入らず洗面所に向かう。目の前の鏡に映るスーパーサイヤ人は水で濡らせばただのサイヤ人。ではなくただの日本人。


畳んで積まれてるタオルを一枚取り、ゴシゴシと水滴が垂れる頭を拭く。タオルを乗っけたまんま歯ブラシに歯磨き粉をつけてシャカシャカと口の中を白くした。


ボーッと鏡を見つめながら磨いて二分くらいたった頃、後ろから足音が聞こえた。


足音の正体である女子は洗面所に入ってくるとピタッと止まり、鏡越しに俺の顔をじっと見てきた。


一方見られている俺はロボットの様に一定のスピードで動かしていた手を止めて、鏡越しにその女子と目を合わせた。


「……あ」


全てを映すと思わせる鏡は、俺のmy friend

めんどくさそう女子を召喚していた。


長い髪はボサボサで、寝間着はThe部屋着と言わんばかりのダボダボなTシャツ。

下は────────は、穿いていない、だと!?!?!?!?


あまりの驚きに口に含む歯磨き粉を鏡にフルダイブさせるところだった…。


危ねぇ…せっかくの初宿友達を無くすところだったぜ…。


鏡越しでも目がの方に動かされそうになるのを必死に抑え、体中の理性というものを引っ張り出す。


なんとかして歯を磨き続けようとした時あるものを見た。


寝癖がついている長い髪だ。

あちらこちらに乱れている。

まるで髪の毛が逃げようとしているかのように上や横に暴れていた。


途端、引っ張り出していた理性は急に引っ込んでいった。理性を無くして襲いかかろうなんて事ではい。必要がなくなったのだ。


自然と手は動き、また歯を白く塗り替えた。

口に水を含みうがいをした。

バシャバシャと顔を洗い、少しぼっーとしていた頭をシャキッと切り替えた。


目の前の鏡を見ると後ろにいた女子はいつの間にか姿を消していた。後ろを振り向いても見当たらない。


「……あいつ何しに来たんだよ」


俺は風呂と隣接している洗面所の引き戸を閉めようとした。


「…………」


目の前の光景を目撃した瞬間、俺の思考回路はオーバーヒートを起こし停止した。


服を半分脱いでいる人が引き戸の向こうに立っていた。


頭がどうにかなりそうだッ……!!

頭では見ちゃいけないのは分かってる……。

でも本能が俺を動かそうとしないんだッ…!


心の中で己と葛藤し続けるが、かなり手強い。体感では何十分ともなる熾烈な戦いに勝利をし、かろうじて動く腕を何動かし気づ

かれぬようにそっと閉めた。


「ふぅ…朝からまさかのハプニングだったぜ」


汗の出ていない額を拭く仕草をし、やりきった感を出す。


声の聞こえる居間の方に歩いて行く。

ドアの前まで来ると軽かった足取りが象の足のように重くなった。


多分、だいたいの奴らがいるんだろうな…。

しっかり全員と対面するのは今日が初めてだが、やっぱり緊張するぜ。


取っ手に手をかけあとは動かすだけという所まで来た。ただそこからまた動かない。


「何してんの変態くん」


聞き覚えのある声が後ろから降り掛かった。

俺の事を変態と呼ぶ女子はただ一人だけ…


「よ、よお昨日ぶりだな」


「おす変態くん。今日は誰の部屋に潜り込むのかな」


チュッパチャップス女子。

何気に荒木さんの次に話した住人Aだ。


「あれは誤解でだな──!」


「へ〜……」とさも興味がないかのように女子は言い、俺の上から手を置き引き戸を開けた。


興味は本当にないのかもしれない……。


「おはよー」


チュッパ女子が先陣を切って中に入った。


「おはー」と金髪


「おはよう」と荒木さん


「おはよー」と長髪


居間には三人の住人がいた。


何もせずただテレビを見ている荒木さん。

同じく何もせずテレビを見ている金髪女子。

台所で何やら作っているロングヘア。


そこに新たに二人加わる。


座布団を持ちテレビの前に行くチュッパ。

そして敷居を跨ぐか跨がないか考えてる俺。


我ながら今の俺はすごく滑稽に見えると思う……。


緊張の第一歩、俺は固い決意とともに居間に踏み入れた。


荒木さんが「バカやないの」とでも言いたげな視線を俺に向ける。


(仕方ないでしょう…!お、俺は女子が───)と、こちらも視線で訴えようとしたところもう俺には興味はなくなったようで…。


他の二人も俺に気づかれないようにチラッと目だけで確認してまた自分の見ている方、やっている方に目を向けた。


いいんだぜ!ジッと見つめても!

なんて言えるはずもなく唾と一緒に呑み込んだ。


居間に入ったはいいものの余計に気まずい。

一体どうしたものか…。


チュッパと同じように座ってみろ、金髪の隣か荒木さんの隣だ。不可解な目で見られる未来しか見えんぞ…。


くっ、ご飯の時だけ来るべきだったのかもしれない…!なんという失態だ……。


そんな事を考えている凛の不意を着くように長髪がお盆の上に六人分の皿に朝食を乗せて運んできた。


しゃがみこんでお盆を机に置き、六人分の皿を机に移した。


「ごくろーさん」と荒木さんが言い、テレビをピッと消した。金髪もチュッパも画面が暗くなるとクルっと半回転させて体を机に向けた。


俺も何となく座ろうと思い一番近い金髪の隣に座った。そしてその場にいる全員が座り、残り1つの席だけが空いている。


多分、というか確実にさっき風呂に入ろうとしていた俺のmy friend めん女だろう。


翠蓮すいれんはまだ風呂っぽいし先に始めるか」






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