第10話 自己紹介
「一人ずつ自己紹介してけー」
そう言った途端荒木さんはバタッと後ろに倒れた。
うわっ、痛そーと思い見ると倒れた先に三枚重ねの座布団が。
……この人、最初から寝るきだったのか?
他の三人の女子は誰から自己紹介するか決めている。最初は話し合い、最後はジャンケンで決めていた。
最初からジャンケンで決めれば良かったのに、と思いながら勝負の行方を見つめた。
四回連続あいこが続き、最後はグーで一人負けをした。目立つ髪色の金髪女子。敗戦したグーを見つめてから俺の方を向いた。
「自己紹介とかあんま好きじゃないんですよねぇ〜」
ニヤニヤしながら少し照れている?のか?
明るい髪色は太陽に照らされより一層明るく見える。そしてなんと言ってもサラサラそう。こんな事言ったらまた追い出されそうだが触りたいぐらいだ…。
「名前は
ニヤニヤしている表情は変えず頭だけぺこりと下げた。
苦手と言う割にはサラッとやりのけた金髪女子こと水瀬。
俺が思った事はかなり可愛い、以上!!
さぁお次は誰だ?!
ロングヘアーかチュッパ女子か。
どっちからでもかかってこい!!
「じゃあ次は私」
口を動かしたのは変態くん呼びのチュッパ女子。
初喋りじゃないが改めて対面すると緊張する…。全く情けない……。
「どーもー変態くん」
「…おっ、おま!!」
凛は唐突のその呼び方に反応が少し遅れた。
イタズラ成功と言わんばかりの笑みを浮かべチュッパは自己紹介を続ける。
荒木さん含め他三人は「なんの事?」と言いたげな顔で俺とチュッパを交互で見ている。
「私は
あいだあいだに意味ありげな事を言って荒木さん達を余計に混乱させる。
おのれチュッパ女子、改め笹原め…いつか仕返しを……。
「…お前らなんかあったのか」
寝転がっていたはずの荒木さんはいつの間にか座布団に座っていた。
「なんもないっす」
「部屋に忍び込まれたの」
言葉を被せるように、言わないと約束した事を軽々と言い放つ。
「…ほう?」
何よりも興味を示した表情で俺の方を覗き込む荒木さん。頼むからやめてくれ……!他の住人の視線が痛てぇ…!!
「違う、違うんだ!信じてくれぇ!頼む!」
必死に手を擦り合わせて懇願する。
いや頼むことは無いんだ別に、本当に忍び込んだ訳じゃねぇし─────。
ん?忍び込んだ、のか?
俺の部屋だと思って開けようとしたドアに鍵がかかってて…それで隣の部屋に逃げた、と……
「……」
凛は黙りこくった。
忍び込んだ時と同じような汗が垂れそうだ。
こ、これはもしかして……ピンチ!?!?
凛は笹原に熱い視線を送る。それはどのような熱い視線なのか、きっと分かってくれるはずだ。
「まぁ、もう終わったんでいいですよー」
ケラケラと笑いながら笹原を言った。
感謝すればいいのか恨めばいいのか、俺の心境は複雑だ…。
そして最後のとりでとなったロングヘアー。
一番俺に嫌悪感を示しているのは間違いなくこいつだ。
さあ、どうくるロングヘアー!?
なんでも受け取ってやるぜ!!
「私は
「…君と同じって、俺の事知ってんのか?」
凛がそう言うと自己紹介をした三人同じような呆れた顔をして見せた。
「もちろん知ってるわ。
───だって君、学園で有名人だもの」
「なっ………………」
何〜〜〜〜〜〜?!?!?!
この俺が…そんな有名になっていたのか!?
あの反応を見る限り三人とも俺の事を知っているみたいだったしよォ……。
「そ、そうか…俺、有名人か。そうかそうか」
必死で照れているのを隠す凛。
照れている奴の典型的な行動をそのまま真似しているかのように、痒くもない頭をかいている。
「他校との喧嘩が後を絶たない。教師陣も指導するのを諦めかけてるとの事。
テストでは毎回赤点。毎度追試にいるとも聞きます」
頭の中で歓喜に湧いている凛をねじ伏せるかの如く、次々と凛の問題行動を荒木さんに暴露していく。
「お、お前そんなの別にいいだろーが」
「良くない。こんな問題児と一緒に住むなんて考えられません」
凛に話しているのか、荒木さんに打診しているのか…。どちらにせよまた凛にピンチが訪れた。
「凛、それは本当なのか」
寝転がっていた荒木さんは体を上げて凛の目を捉えた。
「っ……。まぁ、まじっちゃまじですけど…」
じーっと荒木さんの目が俺の目を貫く。
逸らしたいけど逸らせない、魔法のようなその目は何十秒も瞬きを許されなかった。
「まあ」
荒木さんが瞬きをして喋りだした。
「いいんじゃないか、別に」
「「「「……」」」」
当の本人である俺が言うのもなんだが、この人は少し適当すぎるんじゃないだろうか…。
なにか対処をしてくれると思っていただろう三人は呆然とした顔で荒木さんを見ている。
「あ、あざす!」
ロングヘアーこと成川は何か言うこともできそうにない。……というより言う気もないのかもしれない。
この場にいる三人が自己紹介を終え、後は俺のmy friend めんじょ待ちだ。
女子の風呂は長いと聞くが、ここまで長いのか…と思いながら最後の住人を気長に待つ。
それから数分した頃、全員を驚かすようにドアを勢いよく開けてめんじょが入ってきた。
「すいませーんお風呂はいってましたー」
「よーしそのまま自己紹介だ」
寝転びながら荒木さんはそう言った。
「あー…そっか新しい人入ってきたんだった」
明らかにめんどくさそうに彼女は言った。
さすがめんじょとあだ名がつくだけはある。
座っている俺を見下ろしてめんじょは口を開いた。
「そう言えば昨日の夜に会った?気もしなくもないけど…まあいっか。
私は原
「お、おーよろしく」
めんじょこと原、誰よりも端的に自己紹介をすませやがった。さすが my friend!!
「それじゃ手を合わせろー」
いつの間にか体を起こしていた荒木さんがそう言うと、全員が手を合わせ始める。
凛も周りに合わせるように手を合わせた。
『いただきます』
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