第11話 遅刻
どうも千石凛です。
朝飯の食器量が予想以上に多く、遅刻が確定しました。
「まー、仕方ないよな。食器が多いのが悪い。ああ、間違いないぞ」
戸棚に食器を戻し、一直線に部屋に戻った。
他の住民はというと、とっくに借宿を出ていった。少しは手伝ってくれてもいいと思うんだが、まあ仕方がない。
一睡して起きたらいくか。
全くこれだから遅刻は悪くない。
朝開けたカーテンを閉めて、一時太陽とはサヨナラをした。
眠りについて数十分。
今は全く求めていない太陽が俺の部屋を覗いた。自動にカーテンが開き、自動に掛け布団が剥がされた。
「だ、誰だ…」
しばしばする目を擦りながら部屋を見回す。
しかし部屋の中には誰もいない。
殺風景な部屋がボヤけて目に映るだけだった。
「なんなんだよ……」
文句を呟きながら後ろに倒れると、フニっと枕とは違う感触が後頭部を襲った。
その感触に身体を預けたまま目を開くと、そこには荒木さんがいた。
なぜ?
それしかでない。
「なぜ?」
その疑問に荒木さんは何も反応しない。
ただ下を向いて俺をじっと見ている。
「まさかお前は学校をサボろうとしているのか?」
「違うぜ荒木さん。遅刻が確定したからちょっと睡眠をと」
また無言になった。
視線は逸らさずただずっと俺の目を見ている。
惚れられてるのかもしれんな。
冗談だよ荒木さん。変な顔で見ないでください。
「ところで凛」
「はい」
「いつまで私の太ももにいるんだ」
そこでようやく自分の現状を理解した。
俺は今、男の憧れ、膝枕をしてもらっている…!!
いつもなら羞恥心ですぐ離れるが……
「いや、思った以上に頭の収まりがよくて…」
吸い込まれて離れることが出来ねぇ…。
あと眠たい。
凛はゆっくりと瞼を閉じ始めた。
バチン!!バチン!!ボコッ
「おい、何気持ちよく寝ようとしてんだ」
頬を2パチ、腹を1発、眠気は飛んで膝枕から離れた。
「痛てーよ荒木さん…」
「うちはな、遅刻厳禁だ」
「……」
荒木さんの口からは出そうにない言葉がその口から出てきた。
こんなダラけてる人が遅刻厳禁、だと?
「…ちなみにそれはなんで」
「何回も遅刻するとな、学校から連絡が来るんだ。その電話誰がとると思ってるんだ」
「ああ……」
やっぱり荒木さんだ。
全く疑いようのないこの人の意見だ。
「ほら早く」
敷布団を丸められ、俺は布団の上から見事に追い出された。
「行ってこい」
「……うす」
◇◇◇
チャリもバイクもない俺は重い足でなんとか学校に辿り着いた。重すぎる、重すぎるぜ俺の足……。
「おざーす」
二限終わりの放課に教室のドアを開けた。
クラス内の視線は全員音のなる方に向き、凛の方を向いた。
全く一気にスターになった気分だ。
あれ?よく見ると担任が変わってるな…。
みんなも一回り小さくなったようにも見える…。
「千石おまえ……来たのはいいがクラスが違うぞ」
「え?」
「ここは1年の教室。2年の教室は上の2階だ」
「うす…」
もう一度よく見ると知った顔が誰もいない。
羞恥を顔に出さないようにゆっくりとドアを閉めて2階に向かった。
うちのクラスはクラス替えがない。
普通科と違い俺たち商業科は1クラスしかない。
だから必然的にクラス替えがない。
ただクラスの位置が変わっただけだ。
「おざーす」
次こそは正解だった。
同じ担任で同じクラスメイト。
「おーっす」
「そうそう遅刻かよ」
「もう残り1時間しかねーぞ」
◇◇◇
「おい、おい凛。帰んぞー」
1時間しかなかった授業は睡眠学習で終わり、何も入ってない鞄を持って教室を出た。
「単車どこに置いたんだ?前のとこバレただろ」
「そーなんだよ、大変だったぜ全く。
教師が見回ってっからさ、前よりも止めてるとこ遠いんだよな」
くっそーと
「まあ危機一髪だったよなー」
と興奮しながら
俺たちはそのまま喋りながら単車を隠してある公園に行き、龍騎のケツに乗って借家まで送ってもらった。
「さんきゅーなー」
そう言うと、三人は不思議な顔で俺の方を向いている。
「なんだよ」
「いや、また渋い家になったな」
「ああこれは渋いな」
「渋すぎるぜ」
「うっせっ。それじゃ」
「「「おーう」」」
バイクは大きな音を吹かして走りだし、一瞬で凛の見える範囲からは消えていった。
ガラガラとドアを開けて、まず迷った。
「ただいまー」と言うべきなのかを。
前の家の時は親父がいてもいなくてもしていたがここではどうするべきか…。
玄関を見る限り、他の住人は全員帰ってきてる。
どうする凛。
したとしよう。まあ間違いなく返事は帰ってこない。やまびこのようにも帰ってこない。
俺の悲しい「ただいま」が小さくなってこの家に吸い込まれていくだけだ。
しなかったとしよう。
もちろんしないのだから返事はない。
そしてこの家にも「ただいま」を言わないのだから吸い込まれない。
考えるまでもない……。
俺は無言で入り、静かにドアを閉めた。
自分の部屋に近づくと居間が少し賑わっている。どうやら何人かが中にいるみたいだ。
かなり腹は減っているが少し我慢だ俺。
心にそう言い聞かせてまずは自室に帰った。
中は出た時とそのままで布団が散らかって置かれている。俺はその上に容赦なく寝転がり、声が聞こえなくなるのをサナギのように静かに待った。
1分、2分、10分、30分。
ようやく声が聞こえなくなった。
布団に張り付いた体を剥がし、少し眠くなった頭を振りながら居間に入った。
四余り一のウェディング 七山 @itooushyra
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