第7話 晩ご飯
部屋に入るといきなり睡魔に襲われて、俺は硬い地面で眠りにふけていた。
窓の外を見ると太陽はいつの間にか見えなくなり、月明かりに照らされる暗い夜に変わっていた。
『ぐぅ〜』
そう言えば昼から何も食ってないな…。確か、ここは三食用意してもらえるんだっけか?
痛い身体を起こしてドアに向かう。そしてドアノブに手をかけると左隣の部屋、居間から楽しげな声が多数聞こえた。
「…行けるわけ、ないよな」
ドアノブから手を離し一度出るのを辞める。そして貧しい財布の中身を見た。
「ま、貧しすぎる俺の財布…」
ポケットにボロボロの貧しい財布を入れる。机の上には荒木さんが置いといたであろう家の合鍵と部屋の鍵を手にしてそっと部屋を出た。
玄関を出て鍵をかけ、近くのファミレスに検索をかけた。
「ガストがここからだと近いな。距離は…3kmか」
スマホを閉じて、財布とスマホを両手に持って途中まで走り、そこからは早歩きでガストに向かった。
(何気に一人でガストに来るのは初めてかもしれないな…)
俺はガストで安くて美味いコスパ最強のメニュー、ハンバーグステーキを頼み空腹の腹にぶち込んだ。
食べ終えるとすぐ帰路につき、仮宿に戻った。
居間にはまだ4人くらいの声が聞こえる。あわよくば炊飯器に少しくらい白米が炊かれてないかと思っていたけどよ…。
とほほ…と思いながら部屋の鍵を開け中に入った。と思いきや鍵が閉まっていた。
「鍵閉め忘れたか?」
もう一度鍵を捻り中に入った。
「ん?ああ、早かったな」
ダンボールの中から布団を取り出し、その上で寝そべっている人がいた。
「……荒木さん。なんでいるんすか」
横になっていた身体を起こして座った。
俺がここに来た時とは服装は違い長袖の白Tに短パン。変わってはいるがダボダボなのに変わりはない。
「そこに座りな」
指している指の方は荒木さんの前。一枚座布団が敷いてある。俺はそこに足を崩して座った。
…なぜ足を崩して座るって??
もう痺れるのにはご勘弁だからさ!!
「食べてきたのか」
食べてきたのかと言うのは聞かずとも晩飯の事だ。
「ガストで食べてきたっす」
「何を食べてきたんだ」
なんでそんな事気になるんだよこの人。やっぱりちょっとおかしいんじゃないか?
「ハンバーグステーキっすね」
俺がそう言うと荒木さんはいきなりスマホをいじり出した。やっぱりこの人おかしいんだ…。
そんな事を考えて1分も経たないうちに荒木さんはスマホをいじるのをやめ、いきなり立った。
「明日からはここで食べな。外で食べるなんて金持ちのすることよ」
荒木さんは俺の手を取り、449円ピッタリと渡した。俺はあまりの急な事にお金の入った掌を見たまま動けなかった。
「ちょ、荒木さ…」と、呼び止めようとした時には、目に見えたのは木製のドアだった。なんかさっきも同じような光景を見た気がする…。
荷解きを初めて二時間程たち、大量にあったダンボールもあらかた片付け終わった。壁に掛けた時計を見るともうすぐで23時になるところだった。
炊飯器に米があればと心を少し踊らせて、ドアに耳をつけ居間に誰もいないか確認した。
(よし、誰の声も聞こえない)
ドアをガチャりと開けて居間のスライド式のドアをガガガっとあけてしめた。
縁側の方の扉は午前中とは違って閉まっているが、シャッターはないみたいだ。
座布団は綺麗に縦に積まれ端っこに置かれいる。もちろん人の気配も無い。机の上には誰かのスマホが真っ黒な画面で置かれている。
縁側とは対局になっているキッチンの方に向かうと赤くランプがひかっている炊飯器を見つけた。蓋を開けると1/4程残っている真っ白い白米が湯気を放って俺を待っていた。
「うおおぉ!!贅沢だ!」と声を小さくしながら喜んだ。
杓文字を水で濡らし白米をすくおうとして、茶碗を部屋に忘れてきた事に気づいた。
俺は杓文字をサイドにかけて部屋に茶碗を取りに行った。
食器をまだダンボールの中に入れたままだった凛は5分程してもう一度居間に入った。
炊飯器から熱気で湿っている輝かしい白米を取り出して茶碗に入れる。割と大盛りになった茶碗を見るとついつい嬉しくてニヤけてしまう。
炊飯器の蓋を閉め、部屋から持ってきたコンビニでよく貰う割り箸と、茶碗に盛った白米を持ってテーブルまで移動した。
座布団を使おうかとも思ったが、めんどくせぇと思ってそのまま座ることにした。
「いっぱいに炊いてくれた人に感謝。(小さな声で)いただきます!!」
割り箸を綺麗に割って白米を口の中に頬張った。良く噛めば噛むほど甘い汁のようなものが温かい白米の中から溢れ出てくる。
うめぇぜ白米…!
二口目を箸で掴みもう一度口に頬張る。
あぁ、やっぱりうめぇなぁ…!!
そんな風に美味しい食事をしていると閉まっていたはずの縁側から冷たい風が入り込んできた。
「さっっぶいなおい…」
茶碗と箸を持ったまま風が入ってくる方を向くとさっきまでいなかったはずの住人がそこにいた…。
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