第6話 ミッションコンプリート
ここにきてまだ1日も過ごしていない。
ああ、そうだとも半日も過ごしていない。
それなのに……、
なぜ、なぜ!
「罪人扱いされてんだあああぁ!!!!!!」
黙っていられず俺は叫んでしまった。しかし、それは仕方の無いことだ。
そりゃそうだ囲まれてんだぜ?俺
俺は正座させられて周りの三人は腕を組みながら突っ立ってんだぜ?萎縮しちまうぜへっ…
まあそんな中でも荒木さんとさっき見逃してくれた住人二人は呑気にテレビを見ている。
感謝すればいいのか、助けろよと恨めばいいのか、複雑だ…。
「んで、部屋の前に突っ立って何してたんですか?」と長い髪の女が。
「私には分かりますよぉ〜?覗きですよねぇ〜?そうですよねぇ〜?」ニヤニヤと目立つ金髪の女が。
「はぁ…」といかにもめんどくさそうにする女が
なんて事になってしまったんだ…。
元はと言えばあんたがっ…と言いたいところだが今回は俺の完全なるミスだ。
なぜ…なぜっ…!勝手に奥の部屋が106と思い込んでいたのだ…。
「ちが、違うんだ…俺の話を…」ビクビクしている俺を見下ろす形で立っている。これが世で流行りの進〇の巨人と言うやつなのかもしれない…。
「…私、荒木さん呼んでくる」ロングヘアーのその子は少しムカついたように居間に向かって歩いていった。
(ナイスロングヘアー!!間違いない!俺は救われたぜ!!)
今は二対一…人数的にはまだ俺の方が不利な状況に変わりはない。そろそろ正座が痛くなってきたところなんだ…荒木さん早く来てくれ…!
数分が経ち、ロングヘアー女子の後ろをダルそうに荒木さんは歩いてきた。全身に寝起きのようなオーラを纏っている。
「…えー、彼はだな」
誰を見ているのかすら分からない半目でノロノロと喋りだした。他3人の女たちは早くこいつを追い出せ、と言わんばかりの表情で荒木さんを見つめ、そして俺を睨む。
「今日からここに住む事になった新人だ。説明終わったから居間もどるなー」
クルっと身体を反転させ、帰ろうとする荒木さんを「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!!」と長い髪の女が言った。
止められた荒木さんは「ダッる」と今にでも言うんじゃないかと思わせる顔で俺の方をジっと見た。
俺だってもうダルいぜ荒木さん…。俺のミスだけど…。
「荒木さん、ここ男子禁制ですよね!?」
当たり前だ、と言わんばかりの顔で長い髪が…。
「ちょっと手違いでな。まあ私のミスもあったから住まわせてやろうと」
そんな事を言う荒木さんに他4人は『嘘だろ…?』と信じ難い顔になっていた。
これにはずっとニヤニヤしていた金髪の女も少し引きつった表情を顔にバンッと貼り付けられていた。
「じゃ、じゃあこれから私たち、この男と住むってことですかぁ?」
と、さっきの余裕さが嘘だったかのように固くなった金髪。
「そうだな」簡潔に一言で済ませる荒木さん。
その場にいる5人全員が無言、沈黙の中に包まれた。正座している俺は沈黙なんて気にする事は出来なかった…。足がくっそ痺れてるからッ!!早く立たせて荒木さんっ!
「もういいだろ…。さあ早く凛、部屋に行け」
俺はこの人が天使だと思った…。
これは比喩表現とかではなく、本当に、本当に神々しく羽が生えている天使荒木さんだと思った。ありがとう荒木さんッ…!
荒木さんはもうめんどいといった表情を全面に晒しだして居間に向かっていた。
荒井さんにつづいて他3人も居間に向かおうとしていたが、不満気な顔をしていたり睨んできたりなど全く納得していない様子だ…。
……そりゃそうだよなぁ。
まあ仕方がない。切り替えて部屋に行こう!
俺は立とうとした。一刻も早く共同場所にいたくなかったからだ。しかし…俺の足は言うことを聞こうとしなかった。
「…っふ、ぐっがッ…!!」
自分でも発したことの無い声が、聞いたことの無い声が俺の体内を回った。
動けない…全く動けない…。足が固まるようだった。痺れが治まったと思って少し動かせば、悶えるような痺れがつま先から太もも目掛けて電気のように走った。
廊下に住み着く地縛霊のようにうつ伏せで寝そべっていた。
「……お前、なにしてるんだ」
さっき居間に戻ったはずの荒木さんが目の前に立っている。足しか見えないが…。
「足が痺れすぎて…うごけ、ないです」
荒木さんは「…やっぱ馬鹿だな」と悪態をつき俺の両手をもって居間の方、106号室に連れて行った。
「あ、ありがとう荒木さ…」と、言おうとした時には目の前には木製のドアだけが見えた。
「と、取りあえず侵入成功だ…」
───ミッションコンプリート
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