第5話 入らない物
地道に地道に爪で剥がしていたチュッパチャプスのカバーをやっとの事で取り終えた。
ぶるぶると震えるチュッパチャプスを持つ手を逆の手で抑えながら性格に難アリのJKの口許にゆっくり持っていく。
そのJKは無防備に目をつぶって口を「あ」の形で開けて待っている。
ぬぉぉぉぉぉぉ…!!男の…男の本能を抑えるんだ千石凛!!
やはりよく見ると、いやよく見なくともこのJKも管理人さんと同じで整った顔だ。美人だ…。そんな子がなんで俺にこんな事をさせるんだ…。
「…まだ?」
「男にも心の準備と言うものがあるんだ」
そう言うとJKは「はぁ…」とため息をつき震える手からチュッパチャプスを奪い取り俺の空いた口に突っ込んできた。
「こんな事も出来ないのなら男にもなれないよ君」
JKはスっ、とベットから立ち上がりドアの方に向かう。
「どこに行くんだ」
「居間」
そう言ってJKはドアを開け外に出ていく。と思ったらもう一度ドアが開き中に入ってきた。
「仕方ないからみんなにはナイショにしといたげる。後は自分で何とかしなよ変態君」
そしてまたドアを開けて出ていった。
さあまた隠れんぼの再開だ。隣にある多分俺の部屋になるであろう106号室にどうにかして入り込むのだ…。
まずは鍵を開けなければならない。外からは合鍵見たいのじゃないと多分開かないのだろう。それならば…荒木さんに鍵を貰うしかない。あの人に会わなければっ!
そう考えたらもう早い。この部屋を素早くでて居間にいるであろう荒木さんの元まで駆け抜けるまで…。
問題は住人が居間にいるのか自分の部屋にいるのかだ。まずは出てみよう。
ゆっくりと腰を上げて足音をたてないようにつま先でそっと歩いてドアの前までいく。ドアノブの『ガチャ』という音がたたないようにゆっくりと捻り数センチ開ける。
その小さな隙間なら廊下を覗いた。
「廊下には誰もいない。居間の方からも複数人いる気配はない。多分住人は部屋にいるはずだ、ならば俺がやる事はひとつ…!」
手のひらでそっとドアを開き忍び足で他の住人の部屋の前を通り過ぎて行った。
居間に1番近い荒木さんの部屋の前で止まり居間のドアを『ガラガラッ』とできるだけ音が出ないように開けた。
中にいるであろう荒木さんをキョロキョロして探す。開けた時うわっ!誰かいる?!と思ったがさっきのチュッパチャプスJKが寝転がっていただけだった。
荒木さんはどこかと聞けばいいとこの光景を見た人達なら思うだろう。しかしこの人が俺に協力してくれるとも限らない。他の住人とグルかもしれない、てかその可能性のが高い。
と、頭の中でいくつもの可能性を生み出していると案の定机で隠れて見えなかった寝転がっている荒木さんがいた。
「お、まだお前見つかってないのか」
だるそうな声で寝転がりながら言う荒木さんは見る感じ鍵は持っていなさそうだ。
ポケットにでも入れているのだろうか。
「まあ、あの人に助けてもらいまして…ってそうじゃなくてっ!!」
「…なんだ?」
「なんだって…、気づいてないんですか…。」
荒木さんはなんの事だかと言った表情で俺の方を見ている。
「鍵、空いてないんですよ」
「…んな馬鹿な。私はしっかり開けたぞ」
なんとも自信満々な表情で…。
荒木さんは俺の方を見るのをやめて天井を見始めた。
しかしここまで自信満々に言われては少し自分が間違っているのではないかとも思いたくもなる。
いや、でも俺は確かにドアノブを回したし、引っ張った。それは間違いない。ああ、間違いないとも。
やっぱり荒木さんの間違いなんじゃないか…?
「まあ、とにかく鍵を貸してくださいよ…。」
「…ったく、仕方ねぇ奴だなぁ」
荒木さんはそう言いながら重そうな体をゆっくりと起こしてスボンのポケットに手を突っ込むみ、俺の部屋のであろう鍵を取り出した。
「ほれ、くれてやる」
ほいっ、と鍵を俺に投げ、流れ作業のようにさっきと同じように横たわった。
(なんなんだこの廃人は…。ただの引きこもりにしか見えなくなってきちまったぜ?)
心の中で廃人と呟きながらも、俺はまだ誰も廊下に出ていないことをチェックして、忍び足で奥の部屋へと進んだ。
「ふぅ…この行き来は全く心臓に悪いぜ。寿命が縮むってのを実感した気分だ…」
おでこから冷や汗が垂れてくる。
『106』と書かれている鍵を右手に持ちドアノブに空いている鍵穴に差し込んだ……と思ったが…またしても神様は俺に試練を渡してきたようだ。
鍵穴に鍵が入らないのだ。
何となく予想していたおちだけどよおぉ…これはダメだろぉぉおおおおおおおお!!!!!!!!
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