第4話 一人目の住人

どくっ、どくっと脈を打つ。手に汗が張り付き床が少し濡れる。

瞬きもできないほどに目の前にある足はその場から一歩も動かない。


これがバレたらどうなると思う?

そう、変態扱いからのここに住める確率がほぼ0になる事は間違いないだろう…。


くっ…こいつは一体何をしてんだよ。何分立ったかは知らんが、なんでその場所から一歩も動こうとしないんだよ。


早く出てけよ!

いや、それは俺なんだけどな!

と、的確なツッコミを床に這いつくばりながら入れる。


何分か立ったかな…まだこいつ動かねぇ。


やばい、もう耐えれねぇ。

こうなったらやるしかねぇよな。うん。


俺は目を瞑り頭の中で呪文を唱える。


早く行け早く行け早く行け早く行け早く行け早く行け早く行け早く行け早く行け早く行け早く行け早く行け早く行け早く行け……


一体何百回唱えたか、ゆっくりと俺は目を開く。頼むいないでくれ、と願いながら……


ふぅ…良かった。

俺の強い願いがこの部屋の住人に届いたようだ。ありがとう、俺を住ませてくれてありがとう。


そう心の中で感謝しながら手汗がべとべとについた手をベットの下から出してズルズルと体も出していく。


出ていった住人は電気を消し忘れていったようだ。


まず頭上に光が当たる。冬眠していたクマの気持ちが少しだけわかるような気がする瞬間が俺に芽生えた。それから胴体に光が当たり足に当たる。


「いやぁ、体が固まるぜ」


両手を上げて体を延ばす。


くあ〜、心身ともにほぐれるぜぇ…。

おう、ほぐれるぜぇ…。


そう、俺は安心仕切っていた。一体誰がこの部屋からあの女の人が出ていったと言ったのか、見たのかと。

俺は…馬鹿だった。


「うんうん。それで?そんな所で何をしていたのかな変態くん」


ついさっきまで心身ともにほぐれていた体は光をも超える速度で硬直する。


後ろにあるベットが喋った、だと?

ま、まさかこれはいわゆる心霊現象?!ここは心霊スポットなのか?!


俺の頭は全ての知識を出すために超フル回転させる。

大事なものは何もでないが…。


「そ、そうだな。これはあれだ幽霊と言うやつだ。絶対に見ちゃいけないぞ千石 凛」


「それでは変態君に問題です。

今君の後ろから聞こえる声は誰の声でしょう?」


この部屋の住人、という事は間違いないだろう。しかし!それを言ってしまえば即アウトだ。では他に何がある?


1:幽霊

2:花子さん

3:管理人さん


この三択となる訳だよな。ごめん管理人さん。何とは言わないが。


まあこの中で妥当なのは…1の幽霊だよな。


「…幽霊だ」


「叫ぶ」


「部屋の人」


なんと、自分でもビビるような速さだ。

はは。

俺の意思…弱すぎた…。まあ叫ばれたら元も子もないからな。うんうん。


ゆっくりと首を回してから振り返る。壊れたロボットのようにカチコチなのは自分の事が見えなくてもわかってしまう。


目に入るのはダボダボとしたワイシャツに着いた緩めたネクタイ、パンツが見えるんじゃないかと思えるほど短いスカートをはいているいわゆるJKだ。


…ってゆーか、このスカートのガラよく見るのだな。どこだってか…ん〜、確か今日の朝も見た気がするけど…。


そこで『ピコーんっ!!』と、どこでスカートを見たのか頭に走ってきた。


……ああ、見たとも。今日の朝も、去年もほぼ毎日見たやつだよ。

ああ、そうだとも俺が通ってる学生のスカートだよド畜生めが…。


一体今日はどんだけ冷や汗をかけばいいんだろうか。脱水症状にでもなってまうんやないやろか、て。


ベットに座るJKは肩に触れるか触れないか位の髪の長さで、少し茶色がっかっている。

地毛か染めたのか、微妙な色だな。


いや待て俺よ、凜よ。細かく髪の長さや色を観察している場合ではない。このJKの冷たい眼差しを見ろ。一体何を見るような目で俺を見てるんだろうか。


俺は何も無い硬いゆかで正座をして下を向いている。対してこのJKは足を組みベットに座った状態でこの俺を見下ろしているようだ。


見なくても分かるぜっ!この冷たい視線っ!

早く逃れたいぜド畜生めっ!


「さぁ〜て変態君、どんな罰を受けたいんだね。この私の部屋に無断で入るとは相当なドMなんだろうね君」


前向けねぇよ。こえーよまじで、いや冗談抜きで。並のナリヤンとかチビってまうんちゃうかいな…。


「…こ、これにはですね、ちょっとした事情があってですね」


「へー、それは一体どんな事情なんだい?性欲?性欲?性欲?」


性欲しかねぇーじゃねぇーかちげーよド畜生めがっっ!!って言ってやりてぇーなあ…。

言えねぇーよなぁ。


「いや、そーゆー犯罪的なもんではなくてですね…」


少しずつ頭を上げていく。

この俺が頭を下げるなどあってはならない。

かなりの頻度で頭を下げた記憶はあるが、俺は過去を振り返らないんだ。


でもやっぱ目は見れねぇ…。


「まあいいや。とりあえずそこに置いてあるチュッパチャプスとってよ」


そこに、と言ってこのJKが示すのはL字のデスクとは別にある丸いテーブルの上に置いてあるチュッパチャプスだ。


仕方があるまい、と思いながら腰を少し浮かせた途端…ビキッッッ!!っと足に刺激が走った。


くっ…なんて事だ。少し正座をしていただけで立てなくなるほどビリビリと痺れるなんて…。


短い距離を膝と手を地面につきながら丸テーブルの場所まで移動してチュッパチャプスを取った。それをベットの上に偉そうに座っているJKに同じ格好で持っていった。


手を伸ばしてJKに渡そうとする。

するとどうしたことか、こやつ人差し指を立てて「のんのん」と指を振り始めた。


「食べさせて」


「なん、だと…?」


「叫ぶよ?」


くそっ…!逆らえねぇ…。


痺れがほぐれてきた足には全く気づかないま

ま、あまりにも取りにくいチュッパチャプスに着いているカバー見たいなものを爪で剥がそうと必死になっている俺…めちゃんこダサいで…。


それを見てニヤニヤしているJK…めちゃんこ最低やで…。

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