第17話 目撃<嫉妬の魔女>
「疲れたわね……」
日曜の神矢との河原での邂逅の時の恰好をお姉ちゃんに見られた私はファッションの特訓という名目でお姉ちゃんのショッピングに付き合わされたのだ。お姉ちゃんいわく、レザーの首輪も翼もだめらしい。我ながら似合っていると思うし、神矢は喜んでくれたんだけどなぁ。特に翼は最高だと思う。「日常の中に非日常をプラスするためのアクセントになるのよ」と言ったら本当に哀れなものを見る目で同情された。
まあ、姉の指導を受けた後、何着か買ってもらったからよしとしよう。今は帰り道だが一人だ。せっかく新しい服を買ったのでそのまま着させてもらい、少し散歩したかったのである。決してここらへんが神矢の家の近くだからとか、偶然会えたらいいなーとか思っているわけではない。まあ、特に深い意味はないけれど家の近くについたらラインを送るくらいはしてもいいかもしれない。
などと思っていながら早歩きで歩いていると前を二人の男女が歩いていた。って神矢とえっちゃんじゃない。何で二人が? 私はとっさに気配を消して二人の後ろをついていく。何を話しているのかしら。
「それにしても悪いわね、家にお邪魔したうえ送ってもらっちゃって」
「この時間だからなぁ……夜は闇の住人の時間だからな、一人では危険だろ」
「不審者に会うと危ないから送ってやるよ、ってことでいいのかしら……」
はぁぁぁぁ、家にお邪魔した? 私はまだ神矢の家に行ったことないんだけど……
「気にするなよ、それより今度料理教えてくれないか? 色々あって上手になりたいんだよな」
「あー、あんたへたくそだもんね、いいわよ」
あれ、料理は私が教えるって言わなかったかしら。なんだろう。すっごいむかむかしてきた。負の感情が心を支配してくるきがする。今なら悪魔も召喚できそうな気分ね。なにこれ……
でも冷静に考えたら私たちは偽装カップルにすぎないのだ、私が彼の行動をとやかく言う理由はないのである。でもなんかその場にはいたくなかったので私は彼らに見つからないように家に帰った。共に歩こうとか言ったじゃないの……神矢のばか……
「おかえりー、彼氏には会えたのかな。ちゃんとほめてもらったの?」
「ただいま……ごめん……なんか疲れちゃったから部屋にもどるわ……」
帰宅した私はドアも閉めずにベットに倒れこんだ。そして脇にいるコキュートスを抱きしめながら考える。あの二人は仲が良いようだし、実は好きあっているんだろうか……
いや待った。偽装カップルである神矢も、私たちが本当に付き合っていると思っているえっちゃんも、何かあったら言ってくれるだろう。あの二人の人柄は大体わかっている。
二人は幼馴染だ。お互いの家に行くのはおそらく当たり前のことなのかもしれない。結婚の約束はしてないと言っていたが、十分ラノベみたいな関係じゃない……頭では理解してもやはりもやもやするわね。
「ねえ、コキュートス……私どうしたらいいのかしら、このもやもやを神矢に話してもいいものなのかしら……」
「彼氏の事かな? 嫌だなって思ったら溜め込むより言ったほうがいいよ」
「でもそれでめんどくさい女だなって思われたりしないかしら……その、嫌われたくないっていうか……」
「君の好きになった人でしょ、そんな事で嫌になったりしないんじゃないかな。君の気の狂った言動を許容するくらい器の大きい人なんだからさ」
「あいつの場合器が大きいっていうよりも、同士なんだけど……」
「まあ、直接いうのが抵抗あるならまずはそれとなくアピールしてみたらどうかな……それで気づかなかったらこの鈍感野郎ってぶん殴っちゃえ」
「ありがとう……コキュートス」
私はコキュートスにお礼を言った。抱きしめるとキューとコキュートスが答えるかのようにないた。もちろんぬいぐるみが本当にしゃべっているわけではない。私はドアの影にいるであろうお姉ちゃんのほうをみて「ありがとう」とつぶやいた。
----------------------------------------------------------------
「紅姉さまという方がありながら他の女とイチャイチャして……あの男ぶっ殺しますわ」
何やってんだ、何やってんだあいつ。彼女いるのになんで斎藤さんと仲良く歩いているんだよぉぉぉぉ。これはフォローできないよ。目の前の中学生はすごい殺気立っている。殺気だけなら剣道部の全国クラスだ。
神矢がどんな人間か知りたいというので会いに行くといっていた彼女だったが、一人で行かせると何をやらかすかわからなかったためついてきたのだが正解だったようだ。
「まって、鞄の中から出したその真っ赤な棒はなにかな? それ赤く塗装した鉄パイプだよね!! それで殴ったら人は死んじゃうよ!!」
「うふふ、素敵な色だと思いませんこと? この朱色は今まで葬った罪人達の血の色ですの。『魔杖アブソリュートクリムゾン』人の命を奪う形をしているでしょう?」
「そりゃあね、鉄パイプだからねぇ……明日詳しい事情聞いとくからおちついてくれないかなぁ」
「あんな男は紅姉さまにふさわしくありませんわ!!」
僕は必死に朱をなだめる。このままでは一人の少女を殺人鬼にしてしまう。ああ、本当に面倒な事に巻き込まれそうだ。多分神矢と斉藤さんは意識してないんだろうけどなぁ……明日それとなく注意しておかないと。田中さんがみたら修羅場になっちゃうよね。あはは。ここに田中さんがいなくて本当によかったなぁ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます