厨二時代の可愛い女友達と高二になって再会したら亡き者にしようとしてきたので付き合うことにした
高野 ケイ
第1話 再会<黄泉の魔女と黒竜の騎士の邂逅>
これは中学二年生の時の話だ。俺はすべてに飽きていた。変わらない日常、変わらない毎日。だからいつしか俺の人生を変えるきっかけがないかといつも待ちわびていた。それはある日空から少女が降ってきたり、異世界に召喚されたりそういうことがいつかおきないか、俺は本当に切望していたのだ。
近所の河原で俺はいつものように一人で流れる川を眺めていた。空は昼と夜の狭間にみせる幻想的な紅色に覆われていた。
「逢魔が時か……やつらがわいてくる。黒竜の力を使うしかないのか……」
「逢魔が時……? 黒竜……?」
背後をみると少女が立っていた。一駅先の私立中学の制服に首輪、片目を眼帯で隠しているかなり個性的なファッションだ。ちょっと……いや、かなりいかれててかっこいいな。
そんなことはどうでもいい。聞かれた? まじかよ。くっそ恥ずかしいわ。何が逢魔が時だよ、黒竜だよ、十秒前の俺死ねよ。
「あなたも運命に導かれたのね」
少女は少し固まっていたが俺をみてニヤッと笑った、ファッションはいかれていたが笑顔は可愛かった。ああ、彼女も同士なのか。悪くない……こういうやりとりは悪くない……むしろいい!!
「私の名前は
「
黄泉の魔女に対して俺は包帯を巻いた右腕を掲げた。彼女はそれをみて仲間を得たとばかりにほほ笑んだ。
俺達の交流はそうして始まり一年ほど続いたが何が切っ掛けだったか、彼女が河原にくることはなくなり俺達は会うことはなくなった。モラトリアムは終わったということだろう。連絡先でも交換していれば再び会うことはできたかもしれないが、なんとなく交換はしなかった。約束をしなくとも会う。そこに運命を感じていたのだ。
数年後当たり前だが俺は異世界に召喚されることもなく普通に高校生として生活をしている。そりゃそうだよ、異世界なんてねーよ。宇宙人と遭遇するほうがまだ可能性あるわ。俺が欠伸をしながら席に座ると親友の沖田おきたが声をかけてきた。こいつとも中学からの付き合いである。
「よ、相変わらず眠そうだね。異世界でも行ってきたのかい?」
「あー、ドラゴン倒してきたわ。中々素材落とさなくてさ」
もちろんゲームの話である。こいつは中学時代の俺を知っているのでこうしてからかってくるのだ。クラスの人間にもネタとしていじられる事が多いが、いわゆる俺の厨二キャラは受け入れられている。それは目の前にいる沖田がサポートしてくれたからというのもあるだろう。こいつは剣道部でかなり強いからか、クラスの発言権かなりあるんだよね。彼とは最初こそ名字が沖田で剣道部ということで話しかけたのだが、不思議と馬が合い常に行動を共にしている。名字に運命を感じたのかなんだかんだ新選組の沖田が好きらしい。とあるソシャゲでお前の水着こねーなって煽ってたら今年来た。こいつは嬉しそうにお小遣いを注ぎ込んで狂ったようにガチャを回していたんだけどやばくない? なんで笑顔で金使ってるんだよ。一万円って俺達の世代では結構でかい金額だよな。
「そういや今日転校生がくるらしいね。楽しみだよ」
「あー、聞いた聞いた女の子だろ、可愛いといいな」
まあ、転校してくるのが女の子でかつ美少女なんて確率は宝くじ並みである。あまり期待しないでおこう。
「転校してきた、
だから河原で会っていた彼女が転校してきたときは本当に驚いた。会わなかった二年間でいかれたファッションから、黒いロングの髪に色白な清楚系美少女へとクラスチェンジしていたが、俺にはすぐに彼女だとわかった。どうやら、家庭の事情で転校してきたらしい。しかし真名はむちゃくちゃありきたりな名前だったな。なんだよ、黄泉坂紅って……
俺が驚愕の顔でみていると彼女と視線があった。彼女も俺と同様に驚いた顔をしていたがすぐ笑顔に戻って自己紹介を続けた。
「お、あの転校生が気になるのかな? アシストしてあげようか?」
「ちげーよ、そういうんじゃないって。お前こそタイプじゃないのか?」
「残念、僕はああいう子よりもロリ巨乳がすきなんだよ」
あー、確かに彼女はすらっとした長身に胸は……ノーコメントかな。などと思っていると彼女に一瞬悪鬼のような目で睨まれた気がする。え、なんなの? あの子心読めるの? こわすぎない?
彼女と話をしたかったが転校生人気はすごく、周囲には常に女子がいたため結局話すきっかけをみつけることができないまま時間は過ぎていった。
放課後になり帰宅の準備のために教科書を鞄に入れているとなにやら手紙が入っていることに気づく。まさか、組織の人間か!? などと昔なら思っていただろう。あいにく現実は組織などは存在しない。おそらく九割いたずらで一割ラブレターではないだろうか。俺は少しどきどきしながら手紙を開いた。
『お久しぶりです、河原以来ですね。まさか転校してきた高校にいるとは驚きました。色々と話したいことがあるので放課後に校舎裏でお待ちしております。あと昔のことを誰かに言ったら呪い殺す』
うおおおおおお、途中までまさかラブレターかよって思っていたが殺害予告じゃねえかよ。俺のどきどきを返せよ。え、何この手紙、殺害予告かな?
用心棒として沖田を連れて行こうかと思ったがあいつ今部活だし、誰かにこのこといっても殺されそうだ。俺は鞄を持ち急いで校舎裏に向かった。
桜の下には死体が埋まっているという。その死体の養分を吸って桜は綺麗なピンクの花を咲かすのだ。何かの本で読んだことがある。校舎裏の桜の木の下に佇む彼女を見て俺はそのことを思い出した。
「久しぶりだな、紅……いや、田中さん……?」
「その名前は忘れて……田中って呼んで下さい……」
なんて呼ぶべきか悩んでいる俺に彼女が恥ずかしそうに顔を赤らめてそういった。おっけー今後は田中さんと呼ぼう。
「ここにあなたを呼んだ理由はわかりますね、河原でのあれはお互いにとって黒歴史、黄泉坂紅はもう存在しないんです。だからあの日々の事は忘れて誰にも言わないでほしいのです」
彼女の言ったことは予想していたことだったが俺の心は少し痛みを感じた気がした。そう、あの河原での出会いは誰がみても黒歴史だ。思春期特有の病気にすぎない。誰かに知られたら恥ずかしいし口止めをするのは当たり前だろう。でも俺にとってはあの出来事は大事な思い出だったのだ。黒歴史でも俺にとっての歴史の一部なのだ。だから彼女がそれをなかった事にしようとしているのだと知り少し悲しかった。
「まあ、そうだよな。俺たちももう高校生だしな。あのときのことはなかった事にしよう……わかったよ、誰にも言わないと誓う」
俺の言葉に彼女は頷いた。でも気のせいだろうか。彼女が少し寂しそうな目をしている気がしたのだ。だから俺は一つの賭けに出ることにした。まあ、失敗しても恥ずかしい思いをするだけだ。
「さらばだ、黄泉に咲く一輪の紅花よ!! あの逢瀬はもはや夢幻となった。凡人と化した貴様と会うことはないだろう」
「フッ、我が名は黄泉坂紅、黄泉は死を司るものであり、死は永遠であり我は不滅なり!! 今は姿を隠すが無となるわけではないわ。一時的に身をひそめるだけよ」
俺と彼女は昔のように決めポーズをしながら名乗りをあげ……時間が止まった。そして時は流れ出す。よかった。黄泉坂紅は死んでない!! 彼女の中にまだ生きているのだ。どうやらかつてのやり取りに反射で返してしまったようだ。
「ふわぁぁぁぁぁぁぁぁ、またやってしまいました……てか、こうなるのわかってましたよね!! 高校では普通でいようとしたのに!!」
「いや、心配しなくても異常だろ……うぉぉぉぉぉぉ、首をしめようとするんじゃねええ」
「平穏な日常のために我が贄になりなさい!!」
恥ずかしさで顔を真っ赤に染めた彼女はしばらく頭をかかえてうずくまっていたが俺に襲い掛かってきた。え? ここで亡き者にされんの俺?
「とりあえず落ち着けって、人がみてるから、いやまじで!!」
「えっ……?」
俺の言葉にあわてて彼女は周囲を見回す。何事かとのぞいていた一年生が田中さんと目が会うとあわてて逃げていった。ここ意外と人通りあるんだよね。
「とにかく、学校では昔の話は絶対しないでくださいね!!」
そういうと彼女は走ってどこかにいってしまった。俺は彼女を目で追うことしか出来なかったが不思議と気持ちは喜びに満ちていた。なぜなら彼女はまだ厨二の心を持っているのだから。
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