第4話 お弁当<パンドラボックス>
彼女と俺は空き教室でお昼を食べることにした。正式には空き教室ではないんだけどね。廃部寸前の天文部に幽霊部員として入部している俺はこの空き教室の鍵を持っているのだ。
「ここなら素を出して大丈夫だぞ。」
「ありがとう、助かったわ。ここはあなたのアジトかしら」
彼女は気持ちをいれかえるように深呼吸をした。アジトね……さすが紅というべきか、俺がここを拠点にしている意図を見抜いていたか。ここは万が一高校をテロリストが占拠しに来た時用に非常食やエアガンなどが置いてある対テロリスト用のアジトなのだ。
「ほら私の手作りよ、ありがたく食べなさい」
「おお、彼女(偽装)の手料理だー!!」
俺は喜び勇んで渡された弁当箱を受け取り中を開けた。弁当箱の中にあったのはまさにカオス!! 目玉の形をしたゆでたまごや、から揚げらしきものがあるのだがなぜか真っ黒だった。いや、からあげだけじゃねえよ。米も黒いんですけど!! 白米は聞いたことあるけど黒米とか聞いたことねえよ。え、何これ? 本当になんなんだよ、これ!! 俺が開けたのはパンドラの箱だったのかな?
彼女の顔を見ると得意げにこちらをみていた。目が早く食べてっていってるな。これ食べないとだめだよな。いや、まあ、残すなんて選択肢はないんだけどな。
「わー、すっごい美味しそうだー」
俺は少し迷いながらもから揚げを口にした。真っ黒だけど別に焦げているわけではないだろうし、死にはしないだろ。紅はメシマズ系ヒロインだったか……
「あれ……美味い」
本当に美味い。ゆで卵の方も食べてみるが味付けが絶妙である。え、なんか味覚を狂わす魔法とか使われてないよな……?
「当たり前でしょう、私これでも中学はお嬢様学校だったのよ、料理裁縫家事全般はそれなりに教わっているのよ」
「いやー、キャラ的にてっきり、塩とか砂糖間違えたりする料理できない系だと思ってたよ……」
「なにいってんの……常識的に考えて塩と砂糖間違えるはずないでしょ。あんたが昔言ってたように弁当箱の中身を全体に黒くするの苦労したんだからね」
「は……? 覚えててくれたのか」
得意げに自慢する紅の言葉に俺ははっと顔をあげた。俺は昔俺が河原で紅とおにぎりを食べていた時の会話を思い出した。
『やはり白米というのは俺の体には合わない……黒米がいいな……この身に黒竜を宿している俺には光の祝福を受けた白は天敵なんだよ……』
『わかるわ。やっぱり白って聖なるイメージあって嫌よね。それにしてもケチャップって良いわよね。なんか血みたいで魔力高まりそうじゃない』
そういいながら紅は、なんかよくわからないケチャップまみれの肉を食ってたのを思い出した。ついでに近くにいた親子が「お母さんあの二人なんであんな格好してあんなところでごはん食べてるの?」「しっ、見ちゃいけません」って言われてたのも思い出してしまった。ごめんな少年、君は俺達のようになるなよ……
「当たり前でしょう、私があんたとの会話を忘れるはずないじゃない。それよりも結構大変だったのよ、見た目だけじゃなくちゃんと味も良くするの。そんな私に何か言うことはないのかしら」
「とても美味しい弁当をありがとう。さすが黄泉を経験した女。黄泉坂紅だぜ」
「フッ、我が名は黄泉坂紅!! あの黄泉の試練に比べればこの程度たいしたことではないわ。黒竜の騎士にふさわしい食事でしょう?」
紅がキメ顔でそう言った。俺は感動に体を震わせながら紅の作ってくれた弁当を俺は堪能する。これはなんかお礼をしないといけないな。なにが喜ぶだろうか? なんか魔女が着そうなローブでもあげたら喜んでくれるだろうか?
「そういえば、神矢と斎藤さんってどんな関係なの? 下の名前で呼んでたし結構親しいの?」
「ああ、幼馴染ってやつだよ、両親同士も仲良しなんだよな」
「それはなんとも漫画にありがちね。もしかして家が隣同士とか?」
「さすがにそれはないな、徒歩五分くらいのとこに住んでるけど……ついでに言えば結婚の約束とかもしていないぞ」
幼馴染といっても漫画のようにはいかないものだ。まあ、普通に仲は良いけどね。二人で遊んだりもするし連絡もとったりする。そういや、一緒に帰ってたし恵理子とは仲良くなれたのだろうか。あいついいやつだけど一部を除いてオタク趣味はあんまり通じないんだよな。俺の影響で理解はしてくれるけど。
「あの子いいよね、ギャルっぽい格好だから最初仲良くなれないかと思ったけど、転校したての私に気遣ってくれて本当に感謝してるわ」
「そうなんだよ、あいつ口は悪いけど優しいし世話好きなんだよな」
「ふーん」
紅の話に乗って恵理子をほめたらなぜか微妙な顔をされた。あれなんで? 俺なんかやっちゃいました?
「まあ、いいわ。でもいいの? 私と偽装カップルになったりしたら斉藤さんに勘違いされちゃうかもよ」
「ん、別にいいんじゃないか? あー、でもすっごいいじられそうだな……」
「まあ、あなたがいいのならいいのだけど……それと放課後は斉藤さんにお茶しようって言われているから行ってくるわ。放課後デートできなくて残念かしら?」
「そりゃあ残念だけど、これからしょっちゅう会えるしな。ボロださないように気をつけろよ」
俺は紅が学校で友達を作れている事に安心した。弁当を食べ終わり教室に戻ることにした。席を立ったタイミングで俺は震えたスマホを覗く。
『用件はわかるな、放課後体育館裏にこい』
ちょうどいい、俺も放課後に予定ができたようだ。念のため俺はテロリスト用に仕込んである武器を持っていく事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます