第3話 彼女との登校<黄泉の魔女との凱旋>

 そわそわしながら俺は待ち合わせの公園で彼女を待っていた。昨日俺が自分の行動を後悔して悶えていたら彼女から連絡がきて一緒に登校しようという話になったのだ。いいね、なんかラノベっぽくてテンションあがるな。



「ごめんなさい、待ったでしょうか?」

「いや、全然待ってないよ」



 背後からの声に俺はまるでラノベの様に俺は好感度が高くなりそうなセリフを返した。実際はまちあわせより早く来てしまったのもあり、結構待ったんだけどそれは秘密だ。

 振り向くとそこには制服に身を包んだ黒髪の美少女がいた。ぱっと見はどこかの深窓のお嬢様の様だ。さらさらとした長い黒髪に陶器のようなきれいな白い肌。誰が見ても黄泉坂紅とかいう名前で厨二な事をやっているようにはみえないだろう。そこが最高なんだけどな。



「嘘は言わないでください。待ち合わせの十分前にはいたじゃないですか」

「え、なんで知ってんの?」



 俺の言葉に彼女はしまったという顔をしたあと、顔をうつむかせ顔を蚊の鳴くような声で言った。あれ、どうしたんだ。



「なんかこういうの恥ずかしくって、中々声かけるタイミングが……」

「なんだ、お前可愛いな」

「うっさい、あんただって待ち合わせ何分前からいたのよ、どうせ私と登校できるのが嬉しくて待ち合わせよりずっと早く来たんでしょう」

「何のことかよくわからないな、ラノベの読みすぎじゃないか?」



 こいつ悟りかよ!! 恥ずかしながら緊張のあまり全然寝れなかったし、我慢できなくて待ち合わせの三十分前にいたのがばれているのか? この秘密は黄泉までもっていくつもりだったのに……彼女の名前が黄泉坂なだけにね!!

 ていうか口調戻ってるけどこれで学校生活大丈夫なのかなぁ……こいつすぐにボロ出しそう……



「昨日一緒に登校しようって連絡来たときは嬉しかったよ」

「まあ、偽装とはいえカップルですからね、こういう風にカップルっぽいことをしておいた方がいいかなと思いまして。神矢さんも私みたいな美少女と一緒に登校出来てうれしいでしょう?」

「ああ、紅のような綺麗で厨二な女の子と登校出来てうれしいよ」

「そこは自分で美少女とかいうな!! とかつっ込んでください……」



 なぜか紅は顔を赤くしながら俺をにらみつけてきた。自分で美少女って言ったのがはずかしかったらしい。でも美少女だから仕方ないだろ。とはいえあんまりからかうのも悪いので俺は話題を変えることにした。



「そういや、二人の時でもそっちのしゃべりで行くのか?」

「はい、組織の人間がいつ聞いてるかわからないですからね」



 あー、確かにここ通学路だし同級生にいつ会うかわからねーもんな。俺が納得していると彼女は俺にだけ聞こえるように耳元で囁いた。



「それに白い私と黒い私両方いる方があなたも楽しいでしょう」



 彼女の言葉に俺はゾクッとした。ミステリアスに笑う彼女は綺麗な顔もあり、謎の雰囲気がある。この子たまらねーな。俺は改めて彼女と再会できたことを喜んだのだった。





 登校自体は無事に終わった、途中で恵理子と会った時マジかよって目で、こちらを見てきたときにラインを返していなかった事を思い出した。紅とのラインでいっぱいいっぱいになってしまったのだ。あとで昨日の事説明しなきゃ。

 学校に着き席に座るといつものように沖田が声をかけてきた。



「あれ、なんか今日は機嫌がよいね、お姫様にでも召喚された?」

「どちらかと言うと黄泉の魔女に召喚されたな」

「ふーん、それより聞いてよ、昨日ガチャ回したらレアキャラ当たったんだよ。可愛くない?」



 俺は昨日と今朝の出来事を思い出しニヤニヤと笑いながら沖田の話を聞いていた。こいつまた課金したのか……バイトとかしてないのにどっから金稼いでくるんだろう。

 いつもと変わらない授業が始まる、変わったことと言えばなぜか恵理子が時々俺と紅を交互に見ていた事と沖田のソシャゲへの課金額くらいか。紅は休み時間は恵理子を筆頭に女友達と楽しそうに話しているので声はかけないようにしていた。早く紅としゃべりたいなぁ。俺がくだらないことを思っていると、チャイムと同時に授業が終わりを告げた。ようやくお昼の時間である。

 俺はいつものように沖田と一緒に購買部へと向かおうか迷う。これって紅に声かけたほうがいいんじゃないか? でも転校してきたばかりなのに友達作りの邪魔をするのも悪いよなぁ。



「神矢、今日はお昼どうする? ソシャゲイベント周回したいから購買部でパン買って食べないかい?」

「あー、ひょっとしたら予定入るかもしれないんだ」

「お、もしかして気になる子でもできた? 田中さんかな、でもへたれの君じゃごはんとか誘えないだろ? 僕が声かけてあげようか?」



 沖田がからかうように笑った。すまない……俺はお前の想像の先を行く男なんだよ……俺が心の中で勝ち誇っていると声がかけられた。



「あの神矢さん、お弁当作ってきたんでよかったら一緒に食べませんか?」

「え、まじいいの? すっげぇ楽しみ」

「はっ?」



 振り向くと紅が真っ黒い布に包まれたお弁当箱を持って立っていた。多分あの布裏面はアニメキャラとか魔法陣が書かれてるんだろうなぁ。それはさておき女子の手作り弁当とかやべえな。テンション上がるぜ。



「そのために作ってきたんですから、まだ学校に慣れていないので、どこかゆっくりできるところを教えてくれると嬉しいです」

「そうだな、ちょうどいいところがあるぞ、沖田ごめん、一緒に飯食べれなくなったわ」

「はぁぁぁぁぁぁぁ?」



 信じられないという顔をした沖田をおいて俺達は教室を出て行った。ゆっくりできる……ようは素に戻ってもばれないところって意味だよな。正体を隠した魔法少女をサポートする主人公みたいでテンションあがるな。



「嘘だ……そんな……僕は友を手にかけなければいけないのか……」



 沖田がなにやら物騒なことを言っていたが気にしないでおこう。

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