第14話 幕間2.少女と沖田<魔女の眷属と不審者>

 これは今から何年か前の話ですわ。学校に封印されていた創世の神ティアマトの封印が解かれてしまったのです。かつて人間に封印されたティアマトは、自分の体から黒い化け物たちを生み出し、復讐のために化け物たちを学校に放ったのです。化け物たちはとても強く私達人間はなすすべもありませんでした。そしてそれは私も例外ではなかったのです。


 同級生たちが無残に殺されるのをみて、泣きながら体育館に隠れていた私の方へも物音が近づいてきました。そろりそろりと不気味な足跡が響き私の心は恐怖に染まっていきました。そしてドォン!! ドォン!!と音がして、ついに化け物達は体育館の扉をこじ開け入ってきたのです。悲鳴をあげるしかない私でしたが、絶体絶命かと思われたその時、何かが黒い化け物を消し飛ばしました。



「私は黄泉坂紅、人は私を黄泉の魔女と呼ぶわ、化け物風情が私の学校で大きい顔をしないでほしいわね」


 そういってあのお人は……



「ちょっとまってーーーーー、僕は黄泉の魔女と君の関係性をきいたんだけど!? ティアマトって何? 黒い獣ってなんなの? 僕はゲームの話を聞きたいわけじゃないんだけどなぁ!!」

「あー、もう不審者さんはうるさいですわね、人の話は最後まで聞けって学校で習わなかったんですか?」

「初対面の人を不審者って呼ぶのは失礼って学校で習わなかったのかなぁ!!」



 警察に通報されそうになり仕方なくカフェで話をすることになったのだが全然話が進まない。僕は頭を抱えながら気分転換にアイスコーヒーを口にする。ああ、もう少しでソシャゲのイベントが始まってしまう。神矢からラインがきてるが正直今はそれどころではない。



「本当はあと三時間ほど紅姉さまとの出会いと活躍を話したかったんですが不審者さんがうるさいので、割愛してあげますわ。紅姉さまは私の主であり、私を眷属としてくださった偉大な方ですわ」

「眷属ってのがよくわからないんだけど、まあいいや。それで黄泉の魔女っていうのが田中さんの事でいいのかな?」

「田中幸子は紅姉さまの仮の名前ですね。本名は黄泉坂紅と言います」

「なるほどねぇー、そういうことか……」



 目の前の女の子の話に僕は不思議と納得をした。黄泉坂紅っていうのは中学時代に神矢が河原で会ったという女の子の名前だ。それさえ思い出してしまえば田中さんと神矢さんが転校初日に付き合い始めたのも納得である。かつて好きだった女の子と運命の再会かぁ……へー、青春してるなぁ、あいつ。



「そういえば自己紹介がまだでしたね、私の名前は黄泉坂朱よみざか あか!! 黄泉に咲くベニバナより色を与えられ朱色の力を持つもの。人は私を黄泉の魔女の眷属と呼びますわ」

「え……待って。ここカフェだよ、なんでノリノリのポーズで自己紹介するの……あと普段からその格好なのかい?」

「それが眷属としての礼儀でありこの格好こそが正装なのですわ。そういうあなたの名前はなんですの?」

「え、沖田翔だけど……」

「0点の自己紹介ですわね……」

「悪かったねぇ、てか黄泉坂朱とか絶対偽名でしょ!!」

「言ってる事がよくわかりませんが、私の偽りの名は鈴木凪と申しますわ」

「ぜったいわかっているよねぇぇぇぇ。てか田中さんの妹じゃないの? 名字がちがうけど……」



 聞いてから迂闊に聞いていい事ではなかったかと後悔した。複雑な家庭の事情かもしれないのに……



「紅姉様とは血ではなく魂で繋がってるのですわ。紅姉さまとは家が近所でよく遊んでいただいてたんですの。特に私が悩んでいるときに色々お話をきかせていただいて、その話に感動した私は眷属にさせていただいたんですわ」

「あ、そうですか……一瞬でも後悔した自分が馬鹿みたいだなぁ……」



 あれか女子高のお姉さま呼びみたいなノリだったのか……なんで僕はカフェでこんな少女の相手をしているのだろう。自分の人生に疑問を持ったが仕方ない。それにしても、姉なるものではなく、妹なるものね……色んな人がいるものだ。自分の周りも中々やばいやつらがいると思ってたがまだ世界はひろいようだ。

 しかしこれでわかった彼女は中二病なのだ。しかも神矢や田中さんのように卒業しかけではなく現役なのだ。まあ、中学生のようだし十分ありえる事だった。



「それで僕に声をかけた理由はなんなんだい? 雑談をしたいわけじゃないんだよねぇ?」



 彼女に任せているといつまでも話が進まないのでさっさと聞くことにした。そろそろイベントがはじまってしまう。いや、まじで……



「はい、私も世界を黄泉の力で満たすので忙しいので、不審者さんとくだらない話をしている時間はあまりないですわ。ずばり黒竜の騎士が信頼にあたいするか見極める手伝いをしてほしいんですの。紅姉さまは人を信じやすい方なので……」

「ようは愛しの紅姉さまが変な男にひっかかっていないか心配っていうことかな」



 僕の言葉に彼女は頷いた。ふーん、田中さんの事が本当に好きなんだなぁ……それくらいならいいだろうと思う。神矢はいいやつだしどんな人間か知ればこの子の心配も消えるだろう。それにイベント開始と同時にガチャを回したいんだ僕は!!



「いいよ、手伝ってあげよう。これ僕の連絡先だよ」



 僕が彼女にスマホを差し出すと彼女は驚いた顔をした後に満面の笑みを浮かべた。どうしたんだろう?



「いえ、その……私の話を馬鹿にしないで聞いてくれて、しかもちゃんと協力してくれるっていうのに驚いてしまいましたの……私の話をちゃんと最後まで聞いてくださる方中々いなかったですし……」

「あははは、僕はよくも悪くもなれてるからねぇ……それに人の好きなものを否定するような性格じゃないんだよ」

「不審者さんはいい不審者さんですわね」

「あれぇぇぇ、僕名前を名乗ったよねぇぇぇ!? なんかもっと気軽に沖田さんってよんでくれないかなぁ」



 そうして僕は少し変わった少女と出会ったのだった。この出会いが余計な混乱を生むことを僕は想像してなかったんだ。ごめん、本当は絶対面倒なことになるだろうなとはおもったけど早くゲームをしたかったんだ。

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