第15話 .神矢の日常<邂逅の後の平穏>

 昨晩は河原での会話の興奮がおさまらずあまり眠ることができなかったので、俺は寝不足のまま紅と登校することになってしまった。なぜか紅も寝不足らしく時々かわいらしい欠伸をしている。昨日あんなに恥ずかしい事言ったのに完全にスルーされてるよ、やっぱり通じてなかったよな……

 少し話しかけづらいが、一緒にいるのに無言というのはもったいないよな。俺は意を決して話しかける。



「今日はずいぶん荷物が多いけどどうしたんだ? まさか貴様あれを完成させたというのか」

「ふふ、秘密に決まっているでしょう。神矢もびっくりすると思うわ。それにあれはあまりに強力すぎるわ……人の手に余るのよ……」



 俺の言葉に周りに人がいないのを確認してから返答する紅。黄泉の魔女モードである。結局はみんながいるときは本性を隠しつつ徐々に出していこうということになったのだ。でもあれだよね、徐々にって難しいよな。紅の事だから絶対暴走するだろ……



「ジキルとハイド。一個貸してくれ。重いだろう?」

「ありがとうございます。神矢さんは優しいですね」



 そろそろ学校が近くなってきたので合図を伝える、そして俺は彼女からやたらと大きい袋を預かった。一体何がはいっているのだろうか? さすがに失礼なので中身をあけたりはしないが気になる。



「今日はお昼楽しみにしてますからね」

「いや、そんなに楽しみにしないでくれ……」



 そう……今日のお弁当は俺の担当なのだ。昨日のラインの会話の流れでそうなったのだが憂鬱である。





 俺達が教室に入ると一瞬ざわっとしてクラスメイト達が注目した。なんだ、組織の陰謀か? それとも昨日の河原の出来事を誰かに見られたのか? 俺が戦慄していると沖田が声をかけてきた。



「昨日の校門でのやり取りが広まったんだよ。厨二なクラスメイトがいきなり可愛い転校生を彼女にしたんだ、騒ぎにもなるさ」



 ああ、そっちか……よかった。もしも秘密がばれていたら黒竜の騎士としての力をつかうことになるところだった。具体的に言うと俺が紅を無理やりつき合わせたって言って、ラインとかを偽造してそれをクラスに回すくらいである。俺はともかく転校してきたばかりの紅が好奇の目にさらされるのは申し訳ないからな。

 ちなみに紅の方は恵理子のグループに俺の事を聞かれているのか、こちらを指さしながら顔を真っ赤にしながら何か喋っていた。どんな話をしてるんだ?



「そういえば今後変な女の子が君の周りをうろつくかもしれないけど気にしないでほしいなぁ」

「え、魔族かなんかかよ、怖いな」

「どちらかというと魔女の眷属だねぇ……それより昨日のイベントでね……」



 こいつソシャゲのしすぎで頭おかしくなったのかな。俺はいつものように沖田のソシャゲトークを聞くことにした。本当はデートの時の事とか相談したかったのだが、さすがにクラスメイトいるしな。



「フフフ、ようやく我が領域が完成したわ」

「あの荷物これだったのかよ!!」

「だってあなたは黄昏の魔女としての私を認めてくれるんでしょう?」



 お昼休みにいつもの部屋に行くと紅は荷物を広げ部屋の内装を変え始めたのだ。空き教室のロッカーに対テロリスト用の装備が隠されているだけの部屋だったが、全体的に黒いカーテンや水晶玉、プラスチック製の髑髏などが置かれている謎の空間が広がっている。それはまるで映画に出てくる悪い魔女の部屋そのものだった。髑髏とかどこで売ってるんだろうな? いや、たしかアマゾンにあったな。前調べたわ……

 そして紅は嬉しそうに蝙蝠の形をしたクッションに座っている。まあ、彼女が楽しいならいいか。



「労働するとお腹が空くわね、あー、他人が作った料理が食べたいわ」

「はいはいわかりましたよ、お姫様」

「お姫様じゃなくってそこは黄泉の魔女様って言いなさいな。早く生贄をだしなさい」



 やたら上機嫌な紅の視線は俺が持ってきた弁当箱だ。いや、そんなに注目されても困るんだけど……料理苦手だしな。

 弁当箱には不ぞろいに切られたパンに包まれたサンドイッチと申し訳におかずとしてキャベツに塩だれチキンがある。栄養バランスとか彩りとかを考える余裕なんてなかったんだよな。恐る恐る紅をみるが満面の笑みを浮かべたままだ。



「フフ、こういうのは実際作ってくれたというのが嬉しいのよ」

「そういうものかねぇ、俺は紅の弁当が食べたいよ」



 俺はぼやくが彼女は不敵に笑うだけだ。サンドイッチはまあ食える……チキンはどうだろう……



「うおっ……」



 甘い……やべえ砂糖と塩を間違えた。いやいや、やっぱり両方白いじゃん。わかりにくいよ、あんなの。やはりどちらか黒くしようぜ。そっちの方がかっこいいし。そんなことはどうでもいい。紅が食べる前に回収しないと……



「ご馳走様、中々だったわ」

「え、お前あれを全部食べたのかよ!!」

「当たり前でしょう、私の騎士が作ってくれたものなのよ、残すわけないでしょう。今度うちに来た時料理を教えてあげるわ」

「いや、さすがにそこまで頼むのは悪いよ」



 え、ちょっとうちの彼女(偽装)可愛すぎない? ラノベとかで主人公がヒロインの作ったまずい料理を食べて惚れられるってシーン本当かよっておもっていたがいまならわかるわ。これは惚れる。てか私の騎士ね……黒竜の騎士もかっこいいけど黄泉の魔女の騎士もかっこいいな……

 俺が感動していると予鈴がなり楽しい時間の終わりを告げた。席を立つついでにラインを確認する。


沖田:ガチャ爆死した……


 スクショと共にメッセージが送られている。これは既読スルーでいいな。


アーサー:リア充爆発しろ。というか爆発させてやるからな


 これはブロックだな……


恵理子:今日何食べたいの、リクエストあったら早めにいいなさいよね


 ああ、そうか、今日は恵理子がうちに来る日だった。ケーキでも買って帰るかなぁ……

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