第16話 幼馴染<腐界の女王と黒竜の騎士>
恵理子がうちに来るようになったきっかけは何だったろうか、恵理子のお母さんがパートを始め時々夜勤も行くようになり、一人では寂しいだろうからと、うちの両親が一緒に晩御飯を食べようと小学生の時に言ったのがきっかけだった気がする。高校生にもなって寂しいというのはないだろうけれどなんとなく惰性で今も続いているのだ。
「いつもありがとうね、恵理子ちゃんは料理どんどん上達するわね」
「いえいえ、私の方こそいつも混ぜてもらって嬉しいです。やっぱり一人だとごはんも寂しいですからね」
「いや、でも本当に上達したよなぁ、最初は生姜焼きとか炭みたいだったのに……」
最初にうちに来た時を思い出す。手伝う手伝うと俺の母親を困らせていたものだ。ケガをしたら危ないからと断る母親だったが根負けしたのか結局一緒に料理をすることになった。俺はもちろんファンタジー系のアニメを見てたよ。やっぱり魔法とか憧れたよね、今も憧れてるけど。
「そうね、でもそんな炭だらけの生姜焼きをあんたは嫌な顔しながらも食べてくれたわよね」
「そりゃあ、せっかく作ってくれたものだからな。残すわけにはいかないだろう」
ちょっと恥ずかしそうにしている恵理子に俺は答えた。まじで炭の味しかしなかった……まあ、炭だしな。でもさ、幼馴染が一生懸命作ったけど失敗して泣きそうな顔してるなら食べるだろ普通。
「あんたって厨二なところ抜けばそこそこまともなのよね……まあ、それがなくなったら神矢じゃないけど……」
「でしょー、やっぱり親の教育が良かったからかしらね、どう、恵理子ちゃんうちにお嫁にこない? こいつを引き取ってくれるなら歓迎よ」
「あはは、そういってくれるのは嬉しいんですが、神矢にはもう恋人がいるんですよ。さっちゃんの事親に言っていないの?」
「へー、聞いてないわねぇ」
「んん!!」
恵理子の言葉に俺は喉を詰まらせた。うおおおお、飲み込んだはずのご飯が器官に入った。何かの組織の攻撃か!! てか母さんがすっげえ興味深そうにこっちを見てくるよ。助けてくれ。
「……」
俺の救いを求める目を無視して恵理子は食事をつづけてやがる。なんで親と恋バナしなきゃいけないんだよ。
「今度連れてきなさいよ、どんな子なの?」
「清楚で綺麗な子なんですよ。しかも、神矢ってば転校生を口説いたんですよー、転校した次の日には付き合っててびっくりしました」
「へえ、あんたやるじゃないの、どうやったのよ、お母さんに教えてよ」
「ご馳走様!!」
敵しかいねえ!! なんで母はこんなにノリノリなんだよ!! 先手必勝とばかりに食事を終えた俺は自分お部屋へと避難することにした。
ノックと共に恵理子がケーキと紅茶を持って部屋にやってくる。ここのケーキ美味しいんだよね、恵理子が来ると聞いていたので買っておいてよかった。
「入るわよー。あんたはショートケーキが好きだったわよね」
「お、そっちはやっぱりチーズケーキを選んだか」
「さすが好みを把握してるわね、ありがとう」
「フハハハ、感謝して敬え、腐界の女王よ」
「あんた学校でその名を呼んだらぶっ飛ばすわよ……」
拳を握って威嚇してきやがった。俺は降参とばかりに手をあげる。どうせクラスの連中にはばれているからいいじゃないかと思うがそういうものではないらしい。幼馴染という事もありお互いの食べ物の好みは把握している。俺は気が狂ったほど甘いものが大好きで、彼女はわりかしさっぱりしたものが好きである。
「お前なー、母さんの前で俺のプライベートを言うなよ……」
「ごめんごめん、あんたんとこ仲良しだからつい知ってるかと思って……」
「まあ、いいけどさ」
俺達はケーキを食べ始める。やはり恵理子は紅茶をいれるのがうまいなぁ。一回オランジーナとケーキで食べていたら化け物でもみるような目で見られてからケーキと紅茶をもってくるようになったのだ。ひどくない? オランジーナはどんな食べ物とも合うフランスの国民的な清涼飲料水だぞ。
「そういやさ、気になっていたんだけど……さっちゃんも厨二病なの?」
「ぶぉっ!!」
「うわ、汚なっ!!」
そう言ってティッシュボックスを投げてくる、思わず紅茶を吹き出してしまった。紅疑われてるーー!! やっぱりポンコツだから薄々勘付かれてるんだなぁ……
「なんでそう思うんだよ……」
「いや、なんか時々ものすごく変な事いうのよね……あと魔女とか魔法って単語聞くとあんたみたいに目を輝かすのよ」
「か、かんちがいじゃないか……?」
「まあ、あんたがそういうならそういうことにしておくけど。で、あんたはさっちゃんのどこが好きになったのよ」
恵理子が意地の悪い顔をして聞いてきた。ひえ、恋バナにシフトしてきやがったな。偽装カップルという事がばれないようにしないとな。
「あいつとは盟友であり、俺の唯一の理解者なんだよ」
「ごめんよくわからないから、神矢語じゃなくて日本語で話して」
「あ、はい……あいつは俺の厨二な部分も理解してくれるし、一緒に馬鹿なこともできるからかな。気づいたら好きになってたんだ」
「ふーん」
俺の言葉に恵理子はよくわからないなって顔をして相槌をうっていた。いや、俺もよくわからないよ。でも理屈じゃないんだよなぁ。いつの間にか好きになってたんだよな。まるで魔女に魅了の魔法をかけられた気分である。まあ、かけられたことないけど。
「私だって神矢の事理解してたつもりだったんだけどなぁ……なんか置いていかれた気分ね」
「えっ……」
そうつぶやいた彼女の顔はこれまでみてことないくらい大人びていて、思わず可愛いななどと思ってしまった。沈黙が部屋を支配する。あれ、こいつこんなに大人っぽかったっけ……? 普段とのギャップだろうか、もし紅がいなかったらこいつを好きになっていた可能性もあったのだろうかなどと思うくらい彼女の表情は儚げで綺麗だった。
「うおおおおおお」
俺は心の中の動揺をごまかすかのように壁に立てかけてある剣<ファフニール>で自分の頭を殴る。幼馴染相手に何を考えているんだ!! 紅にも悪いだろ。いや、偽造カップルだから関係ないのか?
「え、あんた何やってんの? 頭は……もう手遅れね、病院行く?」
「いや、大丈夫だ。幻惑の魔法を喰らってな……」
「はー、あんた本当に馬鹿よね……」
そう言って俺をみて頭をかかえる恵理子はいつもの恵理子だった。さっきの不思議な空気は霧散していた。
「そういうお前はどうなんだよ、沖田とかどう?」
「いやー、ないわね。あいつは前の彼女のライン無視してソシャゲしてたじゃない。それがきっかけで別れたんでしょ。クズじゃない」
「じゃあ、安心院は?」
「論外ね。あ、この漫画続きが気になってたのよね、読ませてー」
「ああ、お好きにどうぞ。安心院は漫画以下の興味か……」
俺達はそれぞれの時間を過ごす。親しい仲なら無理に話したりしなくてもいいのだ。ただ一緒にいるだけで落ち着く関係というのも素晴らしいと思う。恵理子が漫画を読みながら時々女子が言ってはいけないような声色で「
そうして俺達はいつものように恵理子の親から連絡がくるまで過ごすのだった。
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