第7話 交際宣言<黒竜の騎士と黄泉の魔女の契約>

 沖田にテロリストが学校を襲撃しに来た時用に自作した煙玉を投げつけ、ひるんだすきに俺はすぐさま校門へと駆ける。



「アロンダイトォォォォ!!」



 マジかよ、沖田は即座に前進すると野球のボールを打ち上げる要領で煙玉をはじきやがった。人間技じゃねえな……ちなみにアロンダイトとはランスロットの愛剣である、あいつノリノリじゃねーか。それにしても、沖田のせいでアーサー達に追いつかれそうになってしまった。



「神矢何やってんのよ!?」

「恵理子? それに田中さんも?」



 走っていると目の前に紅と恵理子が歩いていた。思いがけない出会いに俺は足を緩める。おそらく教室で少し雑談してたのだろう。帰宅時間がかぶってしまったようだ。それにしても紅とこんなところで会えるとは……やはり俺達は出会う宿命のようだな。



「モードレット!! ようやく追いついたぞ」

「げっ、アーサー!? お前文化系の部活のくせに体力あるな」

「は? モード……? アーサー? 何言ってんの、それにその恰好はなんのよ……」

「アーサー王伝説ですね。モードレットとアーサーが敵対してるとは……まるでカムランの戦いの再現ですね。ちなみに私はガウェイン推しです」



 きょとんとした恵理子と、アーサー王伝説に反応する紅。普通の女子高生はアーサー王伝説とか知らねーだろ。お前オタばれするぞ……

 アーサーを筆頭に続々と追いついてくるRZK会の連中を見て恵理子がまるでゴミをみるような冷たい目でにらみつける。まあ、不審者だよな……



「なんなのよ、あんたたち……田中さんがこんなん見たら、この学校やばいやつしかいないって勘違いしちゃうでしょ」

「すまないな、斎藤、我々にはいつの間にか女子と仲良くなっているこの裏切り者を処罰しなければならないのだ。」

「神矢さん……この素敵な格好の人たちは一体何なんですか?」



 心配するな恵理子、紅は全然引いてないよ、むしろ目を輝かせてるよ。



「こいつらはRZK会……この世すべてのリア充を憎んでいるやつらだよ……」

「悲しすぎる連中ね……」

「前の学校にもいましたね……」



 アーサー達を見る恵理子の視線がより冷たくなった気がする。騒いではいるがやつらも女子に手を出すことはできないらしくこちらの出方をみているようだ。これが童貞の悲しい性質である。いや、童貞じゃなくても女子に手荒な真似をするやつはそうそういないと思うけど……



「悪いことは言わない、痛い目をみたくなければそいつを渡してもらおうか」

「リア充が憎まれるなら神矢さんの恋人である私も同罪ですね……神矢さんを連れて行くなら私も連れて行ってください」

「はぁ、どういうことだ、え、まさか……嘘だろ、如月……じゃなかったモードレットどうなってんの……この子は昨日転校してきたんだよな……本当に付き合ってんの? お前まさか本当に魔法でも使えるの?」

「ええ、私たちはお付き合いをさせていただいています」

「ふ、イケメンすぎる俺が憎いな、チート能力ばりの俺の魅力に田中さんはやられたのさ」

「いえ、土下座して付き合ってくれと言われたので、しかたなく付き合ってあげることにしました」



 いや、土下座はしてないよな。こっちから付き合ってとはいったけどさ。ちなみにこのセリフもラノベからの引用だな。さすが紅だ、内容ほぼ暗記してるな。

 彼女の一言にまわりのざわざわが止まらない。アーサー達の事だ、女の子に嫌われることはしないだろう。俺はさっさと逃げることを選択する。校門すぐそこだしな。動こうとする俺を恵理子が引っ張った。なんだろう。



「お茶しただけでなくもう交際しているなんて……まあ、いいわ。ここは私に任せなさい」



 驚いた顔をしていた恵理子だったが、深いため息をつきながらアーサー達に向かって言った。



「妻田に中村、沖田、安心院あんしんいん……いい加減にしないと……書くわよ……」

「げぇ……卑怯な……というかなんで我々の正体がわかるんだ。書くだと……貴様まさかあれをする気か……」

「いや、あんたらそれで変装してるつもりだったの……?」


 恵理子の一言でアーサー達がざわつく。紅が俺の腕を引っ張り聞いてきた。



「書くって何を書くんですか?」

「ん? ああ、聞いてなかったのか。あいつは同人作家なんだよ。BL専門のな。しかも絵がすげえ上手いから誰がモデルになったかすぐわかる。俺はあいつを腐界の女王と呼んでいる」

腐腐腐ふふふ、じゃあ、妻田と中村がカップリングで、沖田と安心院は触手攻めでいいかしら。明日の学校を楽しみにしておいてね。教室の話題を持ちきりよ」

『すいませんでしたーーー』



 アーサー達が蜘蛛の子を散らしたかのように逃げ出した。そりゃあ自分をモデルにBLを書かれたらたまらないよな……ちなみにアーサーが安心院ね。

 一人残った沖田が俺の方へとやってきた。



「依頼主も逃げたし、僕の仕事も終わりかなぁ」

「お前、よく平然と俺の方にこれるな……」

「僕は傭兵みたいなものだからね、仕事が終わったらわだかまりなんてないんだよ。今日部活ないし一緒に帰らないか、それとも神矢は田中さんとデートかな?」



 お前にはなくても俺にわだかまりあるんですけどね!! そのセリフは普通裏切ったほうじゃないくて裏切られたほうがいうんだよ!! 俺は半分あきれながら内心つっ込みをいれた、こいつソシャゲのイベント近くなるとおかしくなるんだよなぁ。



「本当に私があいつらを題材に書くと思っているのかしら、全然萌えないわよ、馬鹿じゃないの……」

「へえ、だれでもいいわけじゃないだね」

「当たり前でしょ、あんたたちだって私でエッチな妄想できないでしょう」



 沖田と恵理子が仲良くしゃべっている。この二人は俺を介してだけどよくいることが多いので、結構仲良しなのだ。三人でもちょいちょい遊びにいくしな。それにしてもエッチな妄想……

 紅が清楚で美しい感じで魅力的なのは常識だが、恵理子は対照的に健康美といった感じ可愛らしい。ファッションにも気を使っているし、世話好きな性格もありクラスでも男子の人気は高い。いや、全然いけるな。



「いや、全然いけるよ」

「うわ、きもっ……」

「生理的に無理です……」

「え、待って……神矢もいけるよね!!」



 あっぶね、俺も沖田と同じこと言いそうだった。選択肢を間違えるとこだったぜ。助けを求める目をした沖田に俺は笑顔で答えた。



「いや、友達をそういう目でみるの最低だろ」

「裏切りものぉぉぉぉぉぉ」



 先に裏切ったのはお前だよ。絶叫している沖田を女性二人がまるで汚いものでもみるかのように睨みつけた。哀れな……



「私たちはこれから女子会するからじゃあねー。色々聞きたい事もできたから楽しみだわ」

「神矢さんと名前よくわからない生理的に無理な人、また学校で会いましょう」



 そう言い残すと二人は校門へと歩いて行った。俺は固まっている沖田に声をかける。



「うちでゲームでもやるか、生理的に無理な人よ」

「うう……余計な事いわなければよかった……」



 へこんでいる沖田と遊んでいる最中に恵理子からラインが来ていた『さっちゃんをデートに誘ってあげなさい』と書いてある。え、なにこれ? さっちゃんって紅の事か……なんで女子ってすぐ仲良くなれんの? それよりこのラインの意図はなんなんだ? 俺は困惑しながら『了解』とだけ返信をした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る