私は消えてゆく、世界は続いてゆく

 作風がとても私の好みです。淡々と進む物語は読み手の介在を許さない雰囲気すらあるのですが、主人公である女性はずっと喋り続けます。この語りかける相手が集落の信仰対象である巨像で、賛否ありそうというか、たとえばエンタメ小説方向に振るのであれば違う方向性にすべきだったとは思うのですが、この話の私が一番高評価したい部分は「巨像だけは最初から最後まで不変である」という部分です。
 女性は巨像とコミュニケーションをとっている、一方的に話し掛けるという行為を常日頃行っており、幕切れでも巨像とともにいます。逃げも隠れもせずに信仰対象である巨像の前に居続ける、殉教のひとつととりました。しかしこの従順な態度は一切実らないわけです。
 それが非常に良かった……。何故かと言えば、何もなくなるからです。ちょっとおかしな言い方ですが、この作品を読み終わって抱くものって多分大多数が虚無だと思うんですよ。でも無味無臭ではなく、巨像に対する聖職者の一方的な会話があり、人々の生活があり、攻め入ってくる敵国がいる。でも何も残らない。だからこそ、読み手の胸には空しさが去来する。
 応えないものをそれでも信じた上での殉教、幕切れのあとに訪れる虚無、いいですね本当に好みの雰囲気でした。他の作品も読みたいのでたくさん書いて欲しいです!!

 全然関係ないんですがお名前がマイルドな味わいでいらっしゃるのに読み味が全然マイルドじゃないことはちょっと笑ってしまいました、いいお名前です。