04-028.功夫と竊盗。 Hinunterfliegen Kamelie und Papilio Dehaanii.
午後からの準決勝以降は、一戦三〇分毎の時間間隔で実施される。試合自体は三〇分もかからないが、設営コートのメンテナンスや、次に戦う
三位決定戦だけは特別で、直前で試合をした
これからトーナメントCグループの勝者である
双方とも、競技コントローラで装備の最終登録と被弾判定箇所、および
衆目を集めるのは、観客席からも困惑の声が多く上がる
はっきり言って異様だ。
何時もの
「うーん、
彼女も夏季休暇の終わりから冬季学内大会が始まるまで、ルーの鍛錬に携わってきたメンツの一人だ。教導をする上級生組が手すきの時は対戦なども盛んに行われた。
その余程のこと。大抵が脚から身体の連動を分析され、それが
そんな相手に脚の動きを見せるのは危険だと、この試合も
「
そして何の心変わりか、今回は間違いなく
とは言え、一目で
だからこそ、
出来ることなら
だから。それに付き合おう、と。組み立てが非常に面倒なので
今までの
自分と同様、本質を見せないことが本来の姿なのだろうと
だからだろうか。武術家でない筈の
「もってる
だと言うのに、今回は明らかに
只でさえ厄介だと言うのに、相手に気付かせるための隠形を掛け算されては
そして、刀を一本しか持ち込んでいないことから、
「
以前、コマーシャル撮影のスチルテストで、三人娘が場の流れから接近戦オンリー
――閑話休題。
「
淡々と呟く
試合のみならず、今まで使ったところを見たことはない。しかし、
「あの身体能力と反応速度は危険すぎ。初見の技にも対応出来る身体を造ってると見た」
彼女の躍動する技は、極めて緻密で繊細な技術の裏付けがある。それを非常識な程の膨大な
では、どうするか。
僅かな違いこそが大きな差に変わり
ならば、
「秘技を忍ばせるのは逆に邪魔。隠形と
戦いは武器だけではない。目に見えぬ隠された技術など幾らでもある。
そして
インフォメーションスクリーンに流れていた前試合の映像が止まり、現在の試合コートが表示された。いよいよ試合開始である。
『皆さん、
午後にアサインされた技量の高い上級生アナウンサーが放送し始めたことで、試合開始準備が整ったことを観客も察する。喧噪に近い歓声が小さくなり、騒めきレベルまで場内は静まる。
『ではでは、気になる競技者紹介とまいりましょう! まずは
「Papilio Dehaanii」がそれだ。読み方はほぼローマ字読みで、ドイツ語や英語などでも同じ発音だ。
だが、腰に差した打刀の柄に左手を置きながら武士と同じく折り目正しい礼をした
『続きましては
『双方、開始線へ』
審判のジョン=マイク・ヴィンセントが二人の選手を試合コートへ促す。
向き合った
「
陽気に言葉を掛けながら、
「チューチュー。バナナを所望する」
「混ざってるヨ! その不思議なカッコウも混ざってるカ?」
突っ込みを入れながら、ニヤリと口角を上げる
「試合が始まってからのお楽しみ。隠形系の
「おー、イイネ。ワクワクするヨ。ナニ見せてくれるか楽しみヨ!」
『双方、抜剣』
審判が会話の流れを汲んで、合図する。長すぎず短くもないタイミングは、
『双方、構え』
審判が合図をかけた直ぐ後で
既出である、陳式太極剣三六式第一段に含まれる型だ。
そして、構え自体は両膝を曲げた中腰で左の
対する
『用意、――始め!』
合図と同時に
「(まいったネ。あの灰色は気配揺れるで会場に溶けたヨ。逆にあの赤いの、視界にムリヤリ印象残す手だったネ。なのに
一番恐ろしいのは、暗赤色で塗った目元だ。移動と共にその真価を発揮した。揺れた気配で全体像が曖昧だと言うのに、暗い赤色が有無を言わさず視界に入り、
人間は、無意識に頭部を目で追う。生理現象を利用した虚偽の技。たとえ、目で追ったとしても相手の視線は完全に隠蔽されている二段構えの虚偽である。
ならばと、牽制しながら
余談であるが、
「(やはり簡単には乗ってくれない。逆に隙を出して私の所在を捕まえようとしてる。気配操作を逆に利用された)」
存在の曖昧さを逆手に取り、
では、情報が集まる頃に更なる情報を与え、情報過多に追い込む。
彼女は、陽気なノリと言動や行動から誤解されやすいが、極めて慎重で決して無謀な冒険をしない。陰に潜む技を持つ者は、確実に仕留める筋道が組み上げてから動くものだ。
「(そろそろ見極められる頃合い。では
とは言ったがそれほど複雑な技法ではない。歩法の速度へ遅速を加えるだけだ。だから、反時計回りで
情報を取り扱うことに掛けては、
分析が終わるまでは後少し掛かると見た。そこまで計算してから
「(
古い番組でも見たのだろう。
それが、全部無駄になった。
同じ流れを豹変させる技術は
だからと言って、情報収集と分析を怠ることは出来ない。
只の歩法だけで、余りにも難しい判断を
正直、外から見れば
だからこそだろう。合いの手が入る。
『これは珍しい状況です。
しかし、試合に動きのない時間が長く続いたことで、学園生アナウンサーが解説を挟み込んだ。観客に飽きさせないギリギリの匙加減で一言入れ、客席の意識が途切れないように誘導する。オマケでこのアナウンスが試合を動かす切っ掛けになれば有難いと期待も少々。
「(言うは気楽でいいネ。事件は現場で起こてるヨ! コッチは冷汗モノヨ!)」
「(はぁ。見た目で試合が動かないテコ入れくさい。けど観客に余計な先入観で引っ張るのはどうか)」
既に準備は終わっているのだ。今は仕掛ける条件が揃う時を待っている段階だ。
それから数周ほど
「(よし。来た。始められる)」
ポツリと
それは
だが、
新たな情報を与えたことで、
だが、それこそは
「(やってくれるヨ。攻撃受ける一択にされたネ)」
呆れたように呟く
その証拠に
「(……迎撃する意思が掴めた? やられた。逆に
攻撃の挙動に移っていた
気配察知の攪乱を
点の移動で追従する
そこに攻撃を仕掛けた。
気配操作で出所を曖昧にした
股関節の動きで相手の軸から僅かに外した軌跡を取らせる。こちらの太刀筋だけ体軸が通った攻撃は、相手の軸をずらすことで、受けられても押し通せる
それは回避行動に移られても有効だ。軸がずれた回避から反撃しても、効果は出ない。
そして、肩口から斬り裂かれたと誰しもが見えた瞬間、
「(そうきたか。遁走)」
利き腕の上腕を斬られれば、刃筋が狂う。しかもご丁寧に経絡も合わせて斬られた。斬り上げや左持ち手を使った螺旋の剣筋で反撃も可能だが、その後が続かない。斬られた経絡の影響で、右腕が正しい連動とならないように無力化されているからだ。
その状況に在れば、
――ポーン、と一ポイントを
「(引き際はサスガヨ。先、読まれたヨ)」
相手共々、陰に潜む技を織り交ぜれば、常道の手は通用しなくなる。だからこそ、物理的に身体の流れを切り替える必要がある瞬間に合わせると読んだ。
実際に
特に
そうなると、得た情報源を差分として、見える動きと突合しながら判断せざるを得ない。その動きも気配操作をされ、
ならば。相手の攻撃に任せ、その瞬間を待つ方が確率は上がる。
相手が捉え辛かろうが、自分へ撃ち込まれる攻撃だけは真実だからだ。
「(
点の移動により体軸を右に左へ繰り返し切り替えるのだが、前脚となる左脚は
点の動きは最小半径を取る円だ。小さな動きほど、身体操作は
だが、
だから体軸を切り替える瞬間に放たれた
「(うーん、震脚の出番なくなたヨ。これから出せる機会は来るかネ?)」
本来なら
しかし、
あっけなく
「(見事にだまされた。思った以上に身体操作の違いがある。あの状態から動ける手を持っていた)」
だが、実際に蓋を開ければ罠が張られていた。体軸の切り替えに入った
「(アレは重心移動の流れじゃなかった。股関節で
それを裏付けるのが刀を振り降ろした先に見た、
だからこその緊急回避だった。
間合いを挟んだ駆け引きと一合の交差。それだけの中に、彼女達が積み重ね、練って来た膨大な量の技術が組み合わされていた。
特に
何時もの技と比べれば、明らかに繊細で熟達した身体操作をしているのが見て取れた。
「(さて。次なるは
距離を四歩開いたまま、
――棒立ち。
だが、その姿に対峙する
それでも、警戒度は試合開始時よりも明らかに高く見える。中国単剣も
「(
その無防備な姿勢は
何時でも投擲出来る距離こそが重要であり、投擲しないと言う選択肢も在る。何気に下ろした
その上、隠形を掛けない素の気配を相手に
幾ら虚実に掛かりにくい
だから
「(なるほど。動きを止めて仕切直した。このレベルまで技を出す模様)」
時代の陰に
表裏の技ではなく、その陰と位置付けられる技を持つ同類だけに、何に対してどのくらい反応するかで仕掛ける技や防御法が変わって来る。
そして。
動きを完全停止し、攻撃や迎撃でもなく防御の選択をしたことで、
瞬時にそのラインを選択出来る時点で、相当高位な技術を隠し持っていることが伺える。
「(仕込みは成った。これから本当の
果たして
「(踏ん張りどころを決めた
既に
今回、改めて別の技を試すことに決めた切っ掛けは、午前中に日本在住の知人から貰ったメールが発端だ。
戸隠流に出稽古へ
そして肝心なメールの内容。
今後、ヘリヤと当たるならば、今迄よりもう一段階上の技術を出さねば戦いにすらならないだろう。
だから
「(ティナが
ヘリヤと同格扱いになったティナが今回の
それは
この
それがシルヴィアとの戦いで、恐れを受け入れる覚悟を見せた。であれば、
生真面目で融通が効かず自分に厳しいのに、心の奥底は臆病で、
内に秘めた想いは別として、今は試合の
そう仕向けたのは
「(半端じゃダメネ。一気にGO!ヨ)」
呼気で内功を高め気脈へ巡らし、内
同時に両脚で次の
見た目では判らない異常。
左脚の
まだ残っている右脚の
さすがに
「(ホイサッとヨ!)」
上半身へ満たした
不利な姿勢を取らされたと見えるが、何時でも反撃に転じる
だが、その点も含めての織り込み済、である。問題はこの先だ。
「(こっからが本領発揮ネ)」
良く知る相手だが、今回に限っては全くの未知だ。今迄とは系統の異なる技が曲者だ。本来練っている技術の
ある意味、お互い様の話ではある。双方が先読みし辛い厄介さをどう
使う技術のレベルにより、攻略方法が異なる仕掛けを持った構えが無防備だ。通常の技術でも時間を掛ければ攻略の糸口も見つかる。だが、
その
試合で使ったところは見たことないが、六月のホーエンザルツブルク要塞攻略イベントで、
だから、
しかし、使われることは想定内であったが、その内容が範疇の外にあった。
「(瞬歩の速度が異常。投擲のフェイクが間に合わなかった)」
読んでいた筈の瞬歩には続きがあったのだ。最高速のまま進行方向を急転換したのは完全に予測外だった。
「(同じ速度のまま回り込みまで出来るのがおかしい)」
独特な身体操作で
だが、瞬歩を発動中の気配がどのように移り変わるかを掴んだ。見取りをしていることは
それを踏まえてだろう、
そう、強力な抑え込みだ。
だのに有利な状態でありながら、
十中八九、
だが、この状態から
気になるのは
その代わり、気配の動きを見取りし、試合コートを俯瞰で検知している脳内マップに追加の情報を貰う。まずは、引き続き
試合を牽引、いや、動きを誘引するのは
抑えられていた刀と剣の接触点から、刀の峰へ反時計回りだろう、点の螺旋が加わった。剣の重さが一点に集中し、身体操作を使わなければ、瞬間で刀が折れるレベルだ。
「(こう来たか。やりおる)」
感心しながらも
しかし、よもや片手剣で接触状態から武器破壊の手段を持っていたことに感嘆する。
掛かる筈の力を受け流したことで、刀と剣は接触しているだけの状態となった。表情や気配では判らなくとも、接触した武器から
――またしても先に動かされた、と。
このような虚偽の仕込みは
お互い制約の中で、どのように技術を隠して織り込むのか違いを良く観察出来た
それは別として、またもや観客に伝わらない技術の応酬だったことは触れないでおく。
「(
隠形で完全に気配を消さない。それこそ
だからこそ、気配操作で実像を揺らしながら複数の技術を幾重にも重ねて来た。その中でほんの僅かに異質となる点を一連の流れへ自然と混ぜている。普通では気付けないレベルだが
撃ち合いどころか削りにも来ない。何気ない動きに含ませた普通では気付かない違和感。それは、陰に潜む技を持つ者ならば反応して仕舞う、
「(
表の世界で、見せてはならない技術をそれと気付かれずに出すことがテーマなのだろうか、と。
「(オモシロイネ!
どの道、
ティナの母ルーンも
兎も角、
解禁、とは違うのであろうが、
その瞬間。
「(ここで瞬歩とは驚き。離れる時に使われる対応はしてなかった)」
「(やはり、身体操作に特別な技術を持っている。なるほど、
――それに、と
「(
言葉と共に、
――ポーン、とポイントを取得した通知音が
「(マサカの相討ちヨ!
ところが、
手裏剣が飛来した場所は、腕の付け根、神経が集中しており、左腕の動作が緩慢になる位置だ。中国単剣は下方を向いたままのため、防御へ間に合わせられない。結果的に胴へ被弾判定となり、ポイント的には追い付かれた。
「(投擲の練度は
本来、投擲武器は牽制の役割が大きい。ところが必殺の一撃と成り
競技の特性を理解したからこそ、手裏剣を戦術へ組み込んだ
予想外の一撃を受けた
違うのはそれだけではない。その速度がおかしい。瞬歩を使っている気配がないのに同等なのだ。
それは点の追従なれど、左脚にダメージペナルティを負った状態の
対応のため、
必然的に受けるか流す選択肢に絞らせる一撃。無論、
「(さすがに待ってはくれない。速攻きた)」
それに対して
左右の手を交差させ刀身が斜めになる構えは、ドイツ式武術の
だが、問題はある。刀を持つための右手は逆手気味になるため、受けた衝撃が手首の外回し側に掛かって仕舞う。武器を持つ手首を外側に回す。それは武装解除の基本だ。故に、幾ら両手で受けたとしても、持ち手が交差した状態では攻撃の分散に劣る。
では、どうすべきか。 その答えは、股関節を可動させ上半身の位置移動で
右に上半身を回し、
「(やはり、そのまま次手に繋げた)」
刀の接触感知から剣の刃先であるに関わらず、体重を乗せるではなく
「(むっ、下か!)」
「(チョット、待つヨ!)」
剣の切先を
この状況は誰しも想定出来なかっただろう。
当然、
低い姿勢になった
「(一気に不利なたヨ! ヤラレタヨ!)」
一番の問題は、
そして、
更に、お互いの武器が噛み合っている場所。中国単剣は射ち終わりの腕を伸ばした姿勢であり、力が乗せられない。対して
それがここで効力を発揮し、攻防を不利のまま退避する必要に迫られた。
そして。その全てを
「(イイネ‼
だのに、
いなかったのだ。一部のみとはいえ、
それを凌ぐどころか、純粋な技術のみで
こんな身近に居たとは。
お互いが全ての技を出す訳にはいかない
呼気で練り込んだ大量の酸素を一気に使用し、循環する
意識を一つ深くまで身体と繋ぎ、
まず、常人では反応出来ない秘儀を使った瞬歩と同レベルの退避。それは中国単剣も同じ速度で退くことに繋がる。
だが、
予想通り中国単剣をガイドにしながら攻撃の導線を維持して来たが、何時の間にか左膝の位置がほんの少しだけ前に移動していた。それが上半身を更に前へ移動させる。
そして、続く動きに驚かされた。
呆気なく中国単剣を押し遣りながら刀身は滑り、円の軌道で
そのまま
肩甲骨を使い、高速で引いた右腕の前腕で
復活させた左腕を下から弧を描くように上へ放る。射出された
ポーンと被弾の通知音が
遅れて、ブーと合わせて一本を取得した通知音が
「マサカなコト多過ぎヨ……。マサカがインフレ起こすヨ」
ポツリと呟いた
『双方一本! 第一試合終了。待機線へ』
審判の宣言で観客席は沸くが、インフォメーションスクリーンに表示されている双方のポイント数に観客達が騒めく。
そこには、
「
試合後の会話で
最後の攻防。
何時、投擲動作を織り込んでいたかと言えば、
「そっちも
「よく言うヨ。ソッチこそ見ないで戦うは予想外ヨ」
視点どころか焦点すら捉えられないのは当たり前だった。
「
何とも神秘的な一言で返し、選手待機エリアへ引っ込んでいった
実際に相対している
――選手待機エリア。
ズズズと音を立てながら番茶を
「
それを
が、何時でも特殊な身体操作を使えると言う
「次はたぶん、一合で決まる」
お互いが後二ポイントを残すのみ。一気に仕留めなければ後手に回り、そのまま押し切られるだろう。それぞれが切った
丁度良い温度で保温した
「うーん。接近戦を相手見ナイで撃ち合うは非常識ヨ」
第一試合最後の攻防を
「ウチでも暗闇で戦う鍛錬するケド、
夜間戦闘――新月など星明りの元――の
実際、
「さてと。次は瞬間で終わりそうヨ。
そうして長くも短いインターバルは終了していった。
インターバル終了に合わせて、学園生アナウンサーが次の試合開始直前まで、トーク力で会場を温めてくれていた。
会場が試合開始の準備に入ったところで、盛り上がっていた観客も、これからの試合のため少しずつ静かになる。
そのタイミングで審判のジョン=マイク・ヴィンセントが声高らかに声を上げる。
『双方、開始線へ』
「さっきはNINJYA技にしてヤラレたヨ。本場のNINJYはエゲツないネ」
「NINJYA違う。正しくは
「ナンとヨ! しっかり勉強しなきゃヨ! NINJYAはシノビ、手裏剣シュッシュヨ! そしてドロンネ!」
「うむ。励みたまえ。ニンニン」
阿吽の呼吸でネタ会話が展開されている。先程の戦闘と比べて温度差が酷い。
だがそれは、何時でも冷静であり、即座に切り替えが出来ることの証左だ。
今まで記載はしなかったが、選手が開始線へ向かい合ったところで、審判は試合が可能か判定している。審判用ARモニタに表示される選手のバイタルデータに不調はあるか、装備データが前試合の状況を引き継いでいるかを計測する。全てに問題がないかチェックし、次の試合へ進める可否を決める時間でもある。マイクパフォーマンスの裏ではこのような作業に充てられているのだ。
『双方、抜剣』
審判の合図が掛かる。チェックは問題なく通ったようだ。
『双方、構え』
対する
『用意、――始め!』
審判のジョン=マイク・ヴィンセントが高く上げた手を交差させながら降ろし、開始の合図を掛ける。
その合図で
対照的に
お互いが次の一手で決める準備をしたのだ。
二人は第一試合とは打って変わり、滑らかな動きでスルスルと正面から間合いを詰める。お互いの射程圏にギリギリ触れ合うところでピタリと
静と動。この静止が、それを区別させる一瞬だったからこそ、見ている者の印象に尚のこと残った。
何せ、静止から一秒かからずに決着が付いたからだ。
「(いざ尋常に)」
「(それいけ、ヨ!)」
膨大に蓄積された
虚を突くどころか認識を置き去りにする強襲は、
させないように見えた。
「(ちょっ⁉)」
思わず
気配を
「(むっ! これを
今度は
後の先ではなく、完全なる後の後。相手の動き終わりに合わせて発動させた二つの罠。
一つは伸ばしきった腕を斬る振り下ろし。
そして、二つ目。
それが思いもよらぬ方法で回避され、そして攻撃された。
それらが同時に行われた一瞬後。
――ポーン、とポイント取得の通知音が響き、続けてブーと合わせて一本を知らせる通知音が鳴り、客席から動揺の声が
重力エミュレートされた
「(あの異常な回避を囮にしてきた。
『試合終了、双方開始線へ』
審判が終了の合図を掛ける。審判を挟んで
『
目を瞑り、腕組みをして佇む
『
腰に両手をやり、フンスと胸を張る
『よって勝者は、
「一日に二回も精神ゴリゴリする試合になるとは思わなかたヨ。スゴク疲れたネ」
首を
「よくやった。最後の倒れる回避を囮にコッソリ
「回避の仕方は最初からヤル決めてたヨ。絶対、手裏剣シュッシュしてくるから当たる場所無くしたネ。斬ると一緒に手裏剣飛んできて間に合うかヒーッなたヨ」
相手の攻撃に隠れて手裏剣の投擲があると
「まさか、あの体勢から姿勢制御と移動を
「風評被害ヨ! ソッチこそ最後のアレはナニヨ? 当たる突き当たらない初めてヨ。
「それは誉め言葉。
確かに楽しかったと、
笑いが収まったところで、再び
「次の試合も
「そうネ。二人で、――
笑みを浮かべながら短く答えた
――競技者控室。
唐調服仕立ての演武服は脱ぎ去り、何時もの丈が短く身体にピタリと貼り付く
次で使う武器は、部屋に常設されている武器デバイス確認用スペースに収められ、武器デバイスの最終チェックをしているところだ。電子工学科とスポーツ科学科のサポート要員が、剣身のホログラムチェック中である。
競技者控室のミニキッチンで沸かした湯をいそいそと
「
「陣中見舞いに来ました!
「決勝進出おめでとう。あら、良い
いきなりドアから入って来たルー、ベル、マグダレナの自称応援団が静かだった競技者控室を賑やかにする。
「ありがとうヨ。また来るするは思わなかヨ。丁度お茶淹れてたからついでに振舞うヨ」
半ば呆れ顔の
「あら、催促したみたいで悪いわね。遠慮なくいただくわ。いただくのよ」
「
「ルーはお茶よりゴマだんごをパクつきたいのです。分け前をよこすです!」
ルーの留まるところを知らない食い気に、完全な呆れ顔となる
その間に蒸しが終わった
「おいしいわ。舌触りが滑らかなのね、滑らかよ」
「ほんのり甘いカンジがします! お茶なのに不思議です!」
「気に入ったようでナニよりヨ」
マグダレナとベルには好評のようだ。熟成期間も長い茶葉なので、渋味が丸くなり口当たりは甘くまろやかな仕上がりだ。
「最後の刺突。あれはヘリヤクラスの速度があったわ、あったのよ。私と戦った時、あれを出されてたら一方的に仕留められてたわ」
春季学内大会でマグダレナは
ちなみに。過去、マグダレナは上級生組トーナメントに組み込まれていたが、前大会は公式の試合出場が少なく、実績が少なかったことから年相応の下級生組トーナメントへ組み込まれた。昨年度は、国元で闘牛士の免許取得に時間を割いていたのでランキングポイントが四桁台まで大幅に下がっていたのだ。
「あー、ムリムリヨ。あの速度出せるは中国単剣までネ。レイピア相手には射程足りないヨ」
「
ベルの天才語録は難解だが、何を言わんとしているかは何となく伝わるパターンだったのが救いだ。
「モニュモニュ……ゴクン。最後の
「結果は同じけど動き本質違うネ。ティナは部品単位、ワタシは身体の中一つにして動かすヨ」
胡麻団子を食べ終わったルーが所感を漏らしたが、取り敢えず感が拭えないおざなり気味に口を開いたのは何時ものこと。
ここでマグダレナは、伝えて置くべきことだけを口にする。
「さっき
さすが、闘牛と言う
「そりゃヨカッタヨ。
会場入り前、
しかし、今迄の
だが、試合の去り際に伝えられた
「――だから
期待を込めて
ここには居ない
シュヴァルリ(Chevalerie) ―姫騎士物語― けろぬら(tau2)🐸 @keronura
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